「BitSummit X-Roads」レポート。出版系の参入、インキュベーションプログラムやレーベル設立など、過去数年の新たな試みが実を結んだ歴史的な区切り
国内のインディーゲームイベントの中でも、BitSummitはとりわけ産業としての意味合いを強く感じるイベントです。インディーゲームは「クリエイターが作りたいものを作るものなんだ!」という個人の思いを反映するジャンルであると同時に、現行のビデオゲームシーンにおける産業の一角を占めるジャンルなのも確かなのです。
BitSummitはさまざまなクリエイターの新作の試遊や、会場ステージでさまざまな企画を楽しむイベントなのはもちろんですが、見方を変えれば現在の国内インディーゲームにおける産業の状況を読み取ることができるイベントとも言えるでしょう。
ここのところはコロナ禍もあって、同イベントの開催はオンラインイベント化やメディアのみを入れた実地開催など限定的なものでしたが、今年のBitSummit X-Roadsではついに一般来場を復活。ゲームイベントらしい開催へと回帰しました。そこで目にしたのは、ここ数年間にあった国内ゲーム業界のトピックスがそのまま会場や賞に反映されていた光景でした。
出版系によるインディーゲーム参入。iGiによるインキュベーションプログラム。そしてインディーゲームの “レーベル”を作ることでブランディングする試み。いずれも近年のインディーゲーム開発で話題になった物事です。それらが今回のBitSummitにて反映されていました。
プラットフォーマーと出版の大企業がひしめく会場
開催日はコロナ感染者数がピークになると言われる懸念があったものの、実際の会場は大盛況となっていたと言っていいでしょう。
イベントが開場する前にみやこめっせにたどり着くと、入り口の長蛇の列は印象的であり、イベントが始まればたくさんの来場者がさまざまなゲームやイベントを楽しんでいました。人気ゲームストリーマーによるライブ配信のステージから、クリエイターのトークライブのほか、著名コンポーザーによる音楽ライブなど、やはりお祭りとしての派手さは最大のものでした。
そんな活況のなか、筆者が「これは歴史的な区切りかもしれない」と思ったのは大企業の出展ブース群です。なにせプラットホームホルダーで本イベントのプラチナスポンサーでもあるソニーや任天堂が出展している大きなブースの近辺に、出版系の大企業である講談社や集英社、(そして控えめなブースですが)小学館のブースがあったためです。
ここ数年、日本のゲーム業界では漫画出版の企業がゲームパブリッシャーとしてあいついで進出。小規模開発チームに資金提供を行いながらパブリッシングを行う、ゲーム販売型のコンテストが大変盛況です。ゲーム業界と出版系の大企業が肩を並べるインディーイベントの光景は、端的にここ数年の環境変化が(文字通り、会場にて)目に見えるかのようでした。
とりわけブースの設営に力を入れていたのは集英社です。開場の試遊台の設置の仕方などは、他のブースと比較しても作りこまれていましたし、”集英社ゲームクリエイターズCAMP”というWebサイト名の通り、テントを建てたユニークな展示に意気込みを感じさせるものでした。
出版社といえば、「ジャンプ」や「マガジン」のような少年誌を代表的に、作品のカラーや方向をまとめた漫画雑誌のようなブランディングが特徴と言えます。インディーゲームにおいてはまさに模索している最中なのだろうと思います。
実際に講談社や集英社ブースのタイトルを見ても、まだブランディングによる方向性の打ち出しは弱く、すでに実績や知名度の高いクリエイターの作品が集まっている以上のプラスアルファはなかったです。ただ、小さなブースで出展していた小学館が、コロコロコミックの企画として「コロゲープロジェクト」を打ち出していることは、ある意味で企画のカラーがわかりやすいものでした。
ヨカゼレーベルというブランディングの試みと、最も会場人気を獲得していた作品
そんなブランディングという意味で、今回BitSummitでもっとも結果が如実に現れたのはroom6によるヨカゼレーベルの作品たちだったと感じます。
BitSummitの二日間で一番の熱量を持っていたと感じたのは、大型スポンサー企業のブースではありませんでした。ヨカゼがパブリッシングに加わっている『狐ト蛙ノ旅 アダシノ島のコトロ鬼』(以下、狐ト蛙ノ旅)です。常に試遊を待つ来場者があふれていたのは、筆者が回った限りでこのタイトルだけです。
これは2020年の発表以来、リアス氏による美麗なイラストレーションによって高い人気を博してきました。今回はヨカゼブランドの参加後のBitSummit出展のため、レーベルそのもの評価にするのは若干ずれるかもしれません。しかし、インディーゲームのあらたな見せ方を考えたヨカゼが、特定のブランディングのもとアピールすることを成功させているように思えました。
その他にもヨカゼレーベル作品の会場人気が高いことを示す事象として、同レーベルに加わっている『OU』がBitSummitでポピュラーセレクション賞を受賞したことが挙げられるでしょう。これは来場者の投票で決まる一般出展者作品に贈られる賞のため、先述の『狐ト蛙ノ旅』も加えて本物の会場人気を実現していたのが同レーベルであった、というのは興味深いことです。
過去に弊誌が行ったヨカゼへのインタビューではこうした言葉がありました。「ゲームを買ってくださるユーザ様には何かカラーを打ち出せてるんだろうか?といろいろと悩んで」いたところ、「そういった課題を解決するために、『レーベル』というしくみを提案」し、「レーベルという試みによって同じ方向性のタイトルを集めやすく」なった。そうしたスタンスによる運営が今回の会場人気とは無関係ではないと思います。
iGiによる開発者の育成と、一期生タイトルの評価
もうひとつ会場で象徴的に思えた光景には 任天堂ブースと講談社ブースに挟まれる形で「iGi indie Game incubator」のブースが出展されていたことが挙げられます。
iGiは何度か弊誌でお伝えしているように、選抜した開発チームを半年間かけて育成し、パブリッシャーや投資家の獲得に向けて作品のブラッシュアップとピッチの訓練を行うプログラムです。株式会社マーベラスが主催し、無償で実施されています(※弊誌の運営企業である株式会社ヘッドハイは、iGiのアドバイザーとして参加しています。)。
今回iGiのブースでは第二期生の作品が出展。ヒップホップクルーが作る異端のアクション『SONOKUNI』、3Dアクションの『34EVERLAST』などのタイトルが試遊できました。
iGiのブース担当者にお話を伺ったところ、「今回の出展は本プログラムを広く認知させるため、こうしてイベントやゲームメディアなどに取り上げてもらうことも目的としている」とのこと。今回出展されたタイトルも、当プログラムの効果もあって、品質を向上させている面も大きいようです。
こうしたiGiによる開発者の育成が高い評価となって反映されたのが、一期生のタイトルである全方位シューティングである『NeverAwake』が大賞となるBitSummitアワードを獲得したことでした。ゲーム産業内での新たなクリエイターやスタートアップの成功を支援するインキュベーションプログラムは他国には数多くありますが、ここ日本においてその試みが具体的な評価として実ったひとつだといえるでしょう。
その他の企業や出展に関して
国内の大企業が競って出展しているのを見たのもあってか、Devolver DigitalやRaw Furyといった著名なインディーゲームパブリッシャーは出展していたものの、今回は控えめな印象だったかと思います。というより、今回はここまでに取り上げてきた新興のインキュベーションプログラムや出版系企業によるゲーム販売型コンテストの面が目立っていたわけで、各社が選定したタイトルはやはり高いクオリティを持つもの揃いでした。
また、今回イベントには特殊なコントローラーによるゲームイベント「make.ctrl.Japan 3」も会場内に組み込まれていたことも含め、久々の一般開催というのもあって実地イベントとしては “現地でしか体験できないもの”という価値を存分に発揮していたと思います。
今回のBitSummit X-Roadsはここ数年で進行していた新たなステークホルダーの参入と、インキュベーションプログラムなどが実体化した、ゲーム産業シーンにおけるインディーゲームの状況が見えるイベントだったのではないでしょうか。
もちろん「作りたいものを作るんだ」というゲーム作りの気持ちからスタートするインディーゲームは、極論すれば産業構造と(作りたいゲームの経済的な成功のゴール設定にも寄りますが)無関係なものです。自分の作品をもっと多くのプレイヤーに遊んでもらいたい、そう思う開発者のみなさまは、今回のBitSummitのの動向について参考にしていただければ幸いです。