TGS2026フォーラム「世界へ羽ばたく日本インディーゲーム最前線」レポート
東京ゲームショウがインディーゲームのサポートを継続的に実施していることは開発者の皆様ならよくご存知だと思います。TGS2026では、インディーゲームに関連したセッションも多数実施されました。その中で、東京ゲームショウ2026のフォーラムとして開催されたセッション「世界へ羽ばたく日本インディーゲーム最前線」では、行政や業界団体がどのようにインディーゲームの成長をサポートしているか紹介されました。本記事ではその講演のレポートをお届けします。
第1部「日本のインディーゲームをどこへ、どの順番で届けるか」
セッションは第1部と第2部に分かれた構成で進行しました。第1部は、「日本のインディーゲームをどこへ、どの順番で届けるか」をテーマに、現在国内で実施されているインディーゲーム開発者支援プログラムについて紹介するセッションです。
モデレーターは日本貿易振興機構(ジェトロ)デジタルマーケティング部コンテンツ課の古川喜一氏、スピーカーとしてLUDiMUS株式会社代表取締役でiGi indie Game incubator事務局長の佐藤翔氏と、講談社クリエイターズラボ ゲームラボ統合チーフの片山裕貴氏の3名で進行しました。

まずは世界のゲーム市場に関する背景の紹介からディスカッションが始まりました。現在はインディーから大きなヒットを生むゲーム作品が継続的に出ています。そして、海外においては大きなスケールになりうる作品に対して投資やパブリッシングのサポートがあるなど、クリエイターを支える流れが各地で生まれています。日本においてもここ数年でミリオンヒットが複数出ており、『めっちゃカメレオン』は2,000万本を超え、iGi第3期の卒業生が開発した『8番出口』は300万本を突破しました。
片山氏はこの現象を「プラットフォームの変化」として説明しました。2017年頃から個人でもSteamに出せるようになったことが大きな要因です。Steam市場においては先に海外の個人作品が高い注目を集め、そのあとを日本の個人・小規模チームが追う形でヒットが続きました。パブリッシング事業の担当者として現場を見てきた片山氏にとって、個人が活躍できる場所を広げたのはSteamの力だ、というのが率直な感想としています。
ポイントとしては「国内向けに作り切ってから海外を考える」というやり方が成立しにくくなっているという点です。佐藤氏はSteam市場における日本ユーザーは約2.7パーセントにとどまることを紹介。日本市場だけで回すのは到底難しいことをあらためて紹介しました。これまでに日本から出た大型ヒットで、最も売れたのが日本地域だったケースはあまりないというのが佐藤氏の感触です。また、英語圏だけでなく、中華圏、ヨーロッパの諸言語、ラテンアメリカのスペイン語、ブラジルのポルトガル語を最初から押さえていく必要がある、と述べました。ストアページと本文を英語だけですませる判断は、作品が持つ潜在的なポテンシャルを最初から外すことになりかねません。

古川氏は、官民の支援を開発の段階に沿って整理しました。現在インディーゲーム開発者を支援しているプログラムを大別すると、企画・制作・育成の段階、契約やローカライズ、QAを含むパブリッシングの段階、発売後の宣伝と国内外の展示会という三つの段階になります。創風やiGi indie Game incubatorのように開発者のパブリッシャー獲得を支える仕組み、講談社ゲームクリエイターズラボのように発売までをカバーするプログラムがある一方、ジェトロが主に担っているのは「発売後の届け方」の部分です。その中核が、今年で四年目になる「MADE IN JAPAN COLLECTION」です。これは、Steam上に日本作品だけの特集ページを作り、海外イベントのリアルブース出展と組み合わせて露出企画を作るものです。
現在の登録は約300事業者、およそ600タイトルに達しています。展示はすべてのタイトルが対象でありませんが、Steamキーと広報素材を出せば、ジェトロ側が海外展示会で合同ブースをだし、試遊台を用意してくれます。今年度はロンドンのHYPER JAPAN、ドイツのgamescom、PAX Westをはじめ英語圏のイベントを中心に展開し、今後はgamescom Asiaや韓国AGFも視野に入っているとのことです。
現地に行ける人には商談やピッチの機会もありますが、渡航の費用的負担が大きい為、こうしたリモート展示のサポートを中心に行なっているとのことでした。「MADE IN JAPAN COLLECTION」は未発売でもSteamストアページがあれば対象です。
片山氏は、ゲーム専業だけでなく出版社や異業種の参入が増えている傾向についても触れました。片山氏はクリエイターからしてみれば選択肢が増えていると感じており、講談社ゲームクリエイターズラボ自体もまた、漫画業界の仕組みを活かすかたちで参入した事業になります。
佐藤氏は東映やパルコの例、海外では英国の金融機関がゲーム事業に踏み出した例まで挙げ、非ゲーム企業がインディーに高い興味を持っていることは間違いないと述べました。そして、各社の強みはIP展開、メディア露出機能、実店舗、資金とバラバラです。もし開発者としてパブリッシング契約を検討する場合は、その前に相手が何を得意とし、何を持っていないかを見ることが重要だとしています。

日本のインディーゲームが今後さらに海外へ広がるために必要なこととして片山氏が強調したのは、ゲームタイトル個別の広報活動ではなく、国やコミュニティ単位で海外での露出を作りにいく動きが重要である点です。
海外ではパブリッシャーとデベロッパーがより合ってSteam内の特集ページを作り、自国のゲームが売れるようにする仕組みが整っています。こうした手法は北欧などから学ぶべきことは多く、ジェトロの事業もその日本版に近いと捉えています。
最近の良い傾向としては、日本のインディーゲームが海外の各アワードからの注目を集めつつある点であると片山氏は説明します。自身の経験として講談社から発売した作品がGDCでAudience Awardを受けたあと、Social Impact部門の審査員の依頼が来た経緯を紹介しました。これまでは海外から見づらかたった日本のインディーゲーム開発者による作品が、今後ますます注目されていきます。
ゲームの販売地域についても変化が起こっています。gamescomやPAX West、PAX Eastは引き続き大事ですが、欧米の中心部だけではありません。佐藤氏が「これから特に重要」とした地域は、東南アジアとラテンアメリカだと言います。
実際にgamescomがgamescom Asiaとgamescom Latamなどのイベントが実施されています。たとえばタイ語圏やベトナム語圏は小さく見えるかもしれませんが、ゲームのテーマがその地域のゲームファンとマッチしており現地の反応が良かった場合、口コミやSNSでバズると英語圏や中華圏へ飛び火するケースもあります。小さい言語圏だから後回し、という判断は、バズの発生源を諦める可能性もあるとのことです。
第2部「日本インディーが海外からどう見えているか、何をすれば届くか」
第2部では開発者の視点から、日本のインディーが海外からどう見えているか、何をすれば届くかをデイスカッションするパートです。進行はマーベラスでiGi indie Game incubatorのプロジェクトマネージャーを務める知念さおり氏。パネリストは、ロンドン拠点のKando Factory創設者ボビー・ワートハイム氏、ライツインタラクティブ代表取締役の七瀬誠治氏、PARCO GAMESプロデューサーの福井隆氏です。

知念氏はまずiGiについて紹介しました。iGiは今年で6年目の無償支援プログラムで、現在第7期生を募集しています。経済産業省の「創風」ゲーム分野の運営にも携わり、述べ75組以上を支援してきたといいます。
iGi indie Game incubator
その支援側の視点から見て、日本のインディーゲーム開発者がまず当た壁は「英語でのコミュニケーション」だそうです。今は機械翻訳やリアルタイムでの翻訳ツールもあるため、ここは勇気を出してぜひ挑戦してほしいと述べました。
ボビー氏は、日本のインディーゲームについて「今までになく海外から注目を浴びている」と述べました。『8番出口』『めっちゃカメレオン』といったオリジナリティのあるインディー作品が出ている他、もともと世界の強いIPランキングには日本作品が多く、海外のパブリッシャーもプレイヤーも、子どもの頃から日本のIPに触れているからこその現在の注目度だというのが氏の見立てです。

ゲームスタジオの立場である七瀬氏は、海外でのゲーム出展を通じて現地で二つのことを感じたそうです。まずは、日本の漫画やゲームが本当に好きで、非常に深い関心を持っているファンは確実にいるということ。そして、ただ日本で作ったゲームだからというだけで自然に興味を持ってもらえるわけでは決してないということです。同社のタイトル『モノノケの国』では妖怪、神社、日本の風景を大切にしつつ、「大切な犬を救う」という普遍的なテーマを物語の中心に置きました。日本的な要素は魅力ですが、それを入り口にしながらも、世界共通の体験とビジュアルと言葉に変換する必要があると考えているそうです。
福井氏がパブリッシャーとして海外のイベントに参加した経験からは、さらに割り切っています。韓国G-STAR、上海WePlay、台北ゲームショウ、gamescom、PAXと回った中で、「いまのゲームプレイヤーはどこの国が作ったかをほとんど気にしていない」ということに気がついたそうです。面白ければ遊ぶだけで、日本ブランディングをユーザーに感じたことはほとんどないといいます。一方で、日本のクリエイティブに期待される方向性は確実にあるという思いも持っているそうです。それをゲームの魅力として言語化して渡すのがパブリッシャーの仕事だ、と福井氏は述べました。

ボビー氏はこの意見を補強します。たとえば、スウェーデンは優れたインディーゲームインキュベーションプログラムが運営されており、人口比に対してゲーム産業がとても強くなっていますが、ゲーム作品自体は「スウェーデンらしさ」を全く気にしていません。ゲームが日本を題材にするのは全然ありでとしながらも、日本をそんなに意識して作る必要はないであろう、というのがボビー氏の視点です。開発者が先に決めるべきなのは「日本らしさの演出の多さ」より、ゲームをどんなファンのどんな体験として成立させるのか、ということを考えてほしいと述べました。
くわえてボビー氏が日本のインディーに対して海外イベントで一番気になるとした課題は、ゲームの品質ではなく「ゲーム開発者が現場にいないこと」だとしています。2016年頃から世界中のイベントを回ってパブリッシング契約のための作品探しを続けているといい、Kando Factoryは実イベントだけで年間24〜26回は参加しているといいます。その経験の中においても、日本の開発者の姿はまだまだ少ないと感じるとのことでした。TGSには毎年多くの海外デベロッパーが参加します。だからこそ、日本側も海外イベントへ出て人脈を作る必要がある、というのがゲームビジネスを長く携わってきた側としての実感だと言います。
アメリカとヨーロッパの出展でファン傾向の仮説が逆転
海外パブリッシャーと組む場合の三大障壁は「時差、文化、言語」だとボビー氏はいいます。これを乗り越える方法のひとつは、海外展開やネットワークに強い企業との戦略的パートナーシップだと述べました。ゲーム業界にはそうしたエージェントもいます。
福井氏はPARCO GAMESについて、自ら「海外展開には強くない」と言います。国内はPARCOの店舗を活かした空気づくりやデザインを強みとして展開していますが、海外展開については先人から学びながら走っているそうです。この1年で特に積極的に実施したこととしては、ジェトロの支援を活用して単独では行きにくい地域でタイトルを露出すること、地域ごとに専用のSNSアカウントを運用すること、Discordをタイトル単位で多言語運用することなどだそうです。

ボビー氏はこのやり方ついてよいアプローチだとした上で、氏の同僚が以前の職場で欧州地域のゲームマーケターとして勤務する際、国ごとに売り方が変わることを痛感したと聞いたエピソードを紹介しました。たとえばポーランドやロシアでは、より過激なバイオレンスが好まれやすい。ドイツは欧州平均より評価が厳しめ、などの肌感があるそうです。まずは国ごとの「評価のされ方」で集中する地域を決めていくことが望ましいとしました。
七瀬氏はディベロッパーとして国内のパブリッシャーと組んでゲームを開発していますが、開発者の仕事はゲームの完成だけで終わるわけではなく、ローカライズとイベント出展まで担当しています。その経験の中で、「アメリカはストーリー重視、欧州は文化・ビジュアル優先」と想定して展示会に挑んだところ、アンケートの内容が予想と逆転していたのだそうです。この経験から、海外出展ではある程度の仮説を立てて挑むものの現地でアレンジしていくしかないと知ったのだそうです。
英国の「Hyper Japan」に出展した際は、イベントが日本の文化全般をテーマにしていたこともあり来場者は日本アニメや文化が好きな人が多く、子どもまで列を作り、『今まで遊んだ中で一番面白かった』と言われるほどの体験があったとのことです。一方、世界最大級のゲームイベントであるgamescomでは大手タイトルと並べて評価される背景から、他イベントで「グラフィックがいい」と言われたものが、ここでは低評価になったこともあったそうです。直近に出展したPAX Westはインディーへの熱量が一番大きく、その場でウィッシュリスト登録し、「絶対買う」と言われることもあったといいます。自身の作風と相性が良いイベントを見つけていきたい、というのが七瀬氏の意見です。

福井氏はgamescomに出展した際の経験として、プレイヤーがバックボーンを聞きたがるという特徴ついて触れました。見た目や面白さだけでなく、「なぜこのゲームを作ったのか」などの作り手の来歴への興味が強いと感じたそうです。PARCO GAMESがパブリッシュした『Finding Polka』がWholesome Awardを取った場でも、その傾向が強かったといいます。
同作がgamescomでの受賞につながった経緯として、ゲームの機能説明より、クリエイターのバックボーンを厚くしたことがうまく働いたのではと考えているそうです。一人の日本人クリエイターが、45歳でこの可愛いイラストを描いているギャップ。なぜ作ったのか。人生と成り立ち。そこに共感を織り交ぜて紹介したことが受賞につながったと述べています。
変わって中国と韓国のイベントでは、来場者のゲームプレイヤーとしてのリテラシーが高く、パッと見の印象より「ちゃんと遊んで面白いか」を重視するそうです。熱心なファンから長文アンケートが返ってくるため、テストプレイ先として価値が高いと感じたといいます。
ボビー氏はこうした海外イベント出展について、開発者やパブリッシャーはなぜそのイベントに行くのか?をしっかり決めないといけないと話しました。B2Bでパブリッシャーと話したいのか、ユーザーフィードバックが欲しいのかでは、取る行動が別物になるからです。現在は世界中にイベントがありすぎるため、Webサイト「Game Conference Guide」を活用することがお勧めだと言います。イベント一覧に加え、アワード締切まで載っています。ボビー氏はこのサイトの情報をもとに、四半期ごとに活動テーマを決めてロードマップを自作している、とのことでした。
Game Conference Guide
https://gameconfguide.co
また、ボビー氏はパブリッシャー探しならビジネスマッチングサービスのMeetToMatchをフル活用するべきだと話しました。使いかたのコツとしても、まずプロフィールを全部入れ、招待はデフォルト文を使わない。テンプレを書き換え、ピッチ資料やプレゼンのリンクを貼る…。といった施策で、パブリッシャーとのミーティングが組めるヒット率が上がといいます。福井氏もMeetToMatchを活用しており、サービスの有効性に同意しました。
七瀬氏は、日本海外問わずゲームイベント来場者は「大好きなものを探している人」なので、好きになったらとことん好きになってくれるポテンシャルがあるといいます。インディーゲーム開発者として、イベントを通じてまずは一人でもファンを多く増やす草の根活動が適していると述べ、今回紹介された支援機関を使い、海外イベントへ出るチャレンジの大切さを呼びかけました。
本フォーラムでは、日本から利用できる様々な支援プログラムの紹介と、海外出展で具体的に行うべきことの事例や経験が広く語られました。海外展開を視野に入れてゲームを開発している方は、「MADE IN JAPAN COLLECTION」への登録やiGi・創風などの支援プログラム、講談社ゲームクリエイターズラボなどのコンテストについて今一度調べてみていただき、こうしたプログラムの利用を検討することをお勧めします。





