書籍:『ゲームエンジンアーキテクチャ 第3版』翻訳者ミニインタビュー

2020年12月13日、書籍『ゲームエンジンアーキテクチャ 第3版』が発売されました。本書の発売を記念して、翻訳を担当された湊 和久氏、今給黎 隆氏にミニインタビューを行いました。(以下、敬称略)

….「ミニインタビュー」のつもりでご依頼したのですが、かなりガッツリとインタビューにご回答いただけました。本書の購入を検討されている方、翻訳者に興味がある方はぜひご一読ください。

——自己紹介と本書の紹介をお願いします。

湊:「ゲームエンジンアーキテクチャ第3版」で、新規翻訳および全体の監修を担当しました湊 和久と申します。普段は大阪にあるゲーム開発スタジオ「Ubisoft Osaka」でシニアエンジニアを勤めております。

本書は、「アンチャーテッド」「The Last of Us」シリーズで有名な、世界最高峰のAAAタイトル開発スタジオであるノーティドッグ社で長年リードプログラマを勤めるジェイソン・グレゴリー氏が執筆したゲームプログラムの包括的な教科書になります。タイトルからして、ゲームエンジン開発を志す人に向けた本のように思われますが、実は米国の大学のゲームプログラムコース用に書かれたテキストが元になっています。その内容も基礎的なもので、ゲームエンジンを「使う」プログラマにとっても不可欠な情報ばかりです。さまざまな立場のプログラマの方に手に取っていただきたいなと思います。

今給黎:今給黎 隆です。ゲーム開発者は引退して、普段は東京工芸大学のゲーム学科で准教授として教えています。「ゲームエンジンアーキテクチャ第3版」では、新たな翻訳の確認を重点的に、湊さんが翻訳で迷ったところを一緒に検討してました。

本書は「第3版」とある通り、初版から2回のアップデートを経て出版されました。日本語初版の発売は2010年12月と、ちょうど10年前になります。技術書として、これほどの長い間に渡って本屋の棚を彩ってきたのは、いかに本書の内容が素晴らしいのか・今までに購入いただいた皆様に愛されているのかという事を物語っていると言えるでしょう。

——今回の版の翻訳作業で特に苦労された点は何でしょうか?

湊:何といっても量です。原著は約1200頁ほどある紛うことなき鈍器なのですが、今回は新規翻訳200頁相当だけでなく、第2版までの翻訳の再監修も行い、細かい誤訳や訳抜けの修正、訳語の調整なども行いました。つまり作業量的には、結局1200頁全部通しで精読・翻訳したことになります。これがやってもやってもホントに終わらなくて……

他の同社書籍と比較してもすさまじい厚み

今給黎:大阪は遠かった…コロナ禍でなかなか出歩くことができない今日この頃ですが、この4年間、オフラインで湊さんと会えていません。監修の作業を全てオンラインで行ったのですが、湊さんのお仕事も忙しいと思われる中、新規に大量の訳をされていたので、どう押して良いか引いて良いのかも掴めず、時間が伸びてしまった事は否めません。

——本書を通じてゲーム開発者にどのような事を伝えたいですか?

湊:本書を活用して、先輩から後輩への知識の伝達、新人研修、学校教育を少しでも楽に、効率的に行っていただければ、日本語化の苦労も報われます。先輩が後輩にこの本をポンと渡して基本を押さえ、難しいところや発展部分だけフォローする……みたいな使い方が成立すれば理想だよな〜と思いながら翻訳・監修しました。

自分が学校や研修で習ったことを同じように共有するのは比較的何とかなると思いますが、長年の実務経験と段階的な技術進歩を通じて、いつの間にか会得したような「暗黙知」を他の人に改めてゼロから伝えるのは大変ですし、技術力とはまったく別の力が必要になります。そういった場面で、ジェイソン・グレゴリー氏が大学の授業用に整理・言語化してくれたこのテキストがかなり助けになるはずです。

——なるほど、学校教育での活用が大きな目的なのですね

そもそも、ご同業の方々におかれてましては、ゲーム開発技術を学校で体系的に習った人は少数派で、「独学派」のほうが多いのではないでしょうか。私もその一人で、新卒でゲーム業界に入ったわけでもないので、研修すら受けてません。独学してきた人にとって、本書の体系的・包括的な説明はとても新鮮で興味深いものになってると思うので、ぜひ一度読んでいただきたいです。私は「その手の大学を出てたら、こういうことを最初から習っていたのかな~」と思いながら読んでました。自分が独習したことを棚卸しして確認しながら読んでいくのは楽しかったですし、新しく得られたこともたくさんありました。

若いときに学校でゲーム開発を勉強したり、会社で研修を受けた方にとっても、いい感じの復習教材になるんじゃないかと思います。もう一度学校に通ったり、新人研修に紛れ込むのも、なかなか難しいですしね。

今給黎:大学の先生をしていると、書籍の執筆も評価の対象となるので、本を書くことを考えることもあるのですが、いざ本を書こうと思うと、「下手に本を書くよりも、すでにこの世にある素晴らしい書籍を世の中に広める方が世の中に貢献できるのではないか」と考えてしまいます。で、ゲーム開発に関して、まず読むべき書籍は何かと考えると、それは本書に他ならないでしょう。ゲームのコア技術に関して、これほどの広さと深さで説明している書籍は他にありません。何の支えもなく自立することができる厚さを持つ本書ですが、同じ情報を個別の書籍として集めたら、10冊は超えますし、そもそも良書を探し出すのが大変に難しい。ゲーム技術の大辞典としての本書の輝きは、未だ霞みません。この本が出ている限り、日本のゲーム開発も世界と対等に闘っていけると信じています。

次ページ:時代と共に変わっていった「ゲームエンジンアーキテクチャ」の価値

Takaaki Ichijo

株式会社ヘッドハイ代表。サークルThrow the warped code outとして『Back in 1995』『デモリッション ロボッツ K.K.』を開発

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