書籍:『ゲームエンジンアーキテクチャ 第3版』翻訳者ミニインタビュー

本書の意味合いは大きく変わって来ました。初版のリリース時は、UnityもUnity 3.x 、Unreal EngineもUE3の時代で、まだまだ日本で普及しているとは言い難かった時代でした。その頃は、あのノーティドッグはどのようにエンジンを実装しているのかと、ゲームエンジンを作っていた人たちが、ゲームエンジンのアーキテクチャを学んで自分のゲームエンジンに組み込むために読むことが多かったのではないかと思います。一方、時は過ぎて、現在では、ゲームエンジンを作る機会にはなかなか恵まれません。UnityやUnreal Engineのようなゲームエンジンを新たに作ることは、コアを作るだけならいざ知らず、ツール・環境まで含めて同じレベルに追いつくことはかなり困難な状況でしょう。実際に国内で作られている商用作品のゲームエンジンの数は十指で足るのではないでしょうか。そして、それらに関わっているメンバーも、既に「ゲームエンジン・アーキテクチャ」を呼んで10年以上ゲームエンジンを作ってきた強者ばかりで、なかなかゲームエンジン作りに新たに関るのは難しい時代ではないかと思います。あぁ、なんて不幸な。ゲームエンジンを作っている部署の人たちは、新人が入って来たら優しくしましょう。ということで、10年前と同じ目的で本書を買う人は少ないのではないかと思います。

——それでは、現在の本書の価値とはどのようなものでしょうか?

今給黎:「基礎」ではないでしょうか。自分がゲーム業界に入ることが決まった直後は不安になりました。自分は物理学を専攻していて、コンピュータサイエンスを学んでいなかったので、就職が決まった後はコンピュータグラフィックスに関する書籍を探しに行って、David F. Rogers の「コンピュータグラフィックス」や「実践コンピュータグラフィックス」といった、両方合わせるとゲームエンジン・アーキテクチャになる程度の厚さの本を少しづつ、意味が分からないながらも読んでいました。ブレゼンハムのアルゴリズムやNURBSは、そのころに学びました。ただ、これらを実際の実務で使う機会はありませんでした。しかし、今思い返しても、それらの知識は無駄ではありません。コンピュータの内部でどのような処理がされているのか・どのように処理がされているのかといったことは、すぐには役に立たない色々な情報が緩くつながれた中で醸成されてきたように思います。何か新しいことに挑戦するときは、今までに仕入れてきた知識から手が届きそうな範囲をなんとなく判断できたからこそ、実現できて来たのだと思います。それはゲームエンジンを使う場合でも言えるのではないでしょうか。

たとえばサウンドの項目も「音の物理学」「音波の性質」といった基礎の基礎から始まる

なぜ、フォワードシェーディングとディファードシェーディングの両方を実行しなくてはならないのか。半透明を減らせとうるさく言われるがなぜなのか。これらはゲームエンジンを「使う」ことに主眼を置いた本にはかかれません。コンピュータの仕組みを知ることで理解できるようになります。シニアなゲーム開発者は長年の経験により知見を醸成してきました。ただ、その知見を得る機会はもうありません。本書を読むことで、もう存在しない時間をぎゅっと短縮して身に着け、より戦えるプログラマー・エンジニアになれるのではないかと思います。逆に言うと、ゲーム業界に技術者として入る人は、本書の内容を頭に入れておかないと、先輩方に歯が立たないので、とりあえず読みましょう。

湊:私も職場では他のチームが作ったゲームエンジンを使ったり弄ったりする立場の人間で、ゲームエンジンの構築に関わっているわけではありませんが、本書で扱っている知識や技術を毎日のように使っています。ゲームエンジンユーザーの立場からも、本書の基礎を押さえた内容には太鼓判を押せます。

昨今の商用ゲームエンジンはアップデートのたびにどんどん機能が追加・変更・廃止されていて、追いかけるだけで大変ですが、個々のゲームプログラマにとっては、会社の方針や転職などで、使用するゲームエンジンやライブラリは変わっていきますよね。作る側に回ることだってある。だから、特定のゲームエンジンのアップデートを必死に追いかけても、息切れするだけで割が合わないんじゃないかなと思います。自戒を込めて言いますが、まだ基礎を固めたことがない若いプログラマさんは、早いうちに本書を使って基礎固めをしておくことをお勧めしたいです。買って1,000ページ読んだけど参考文献含めて知ってることだらけだった、という結果になっても、それはそれで自分の能力の確認になりますし。

——本書の読み方でポイントはありますか?

今給黎:一度に全てを読むのはお勧めしません。まず挫折します。自分が良く知っている分野の章から読んでいきましょう。「こんなの知っていることだらけだ、むしろ翻訳間違ってるんじゃない?」と感じたら本書を読む準備は整っています。次に詳しい章に手を伸ばしましょう。間違いは、「お問い合わせ」から連絡を入れるのを忘れないように。元気がある時は、全く知らない章に挑戦するのも良いかもしれません。さて、自分が詳しく知っていると思っていた章を読んでもさっぱりだったあなた。大丈夫。本日本語版は原書の一言一句を正確に転写した翻訳書ではありません。読みづらくないようにと訳した部分が、考えすぎでノリが合わなかったのかもしれません。そんな時は、我々はtwitterに生息しているので、聞いてもらえば何らかのお答えができるとおもいます。

湊:「監修者まえがき」にも我々のお勧めの読み進め方を書いておいたのですが、今給黎さんの今のそれも入れておけばよかったですね。

——ありがとうございました!

ゲームエンジンアーキテクチャ 第3版』は好評発売中です。自作ゲームエンジンに挑戦する予定のないクリエイターでも、今使っているゲームエンジンの内部で何が起きているのかを基礎から知ることができます。ゲームプログラミングに力をつけたい方は、ぜひチャレンジしてみましょう。

igjd

IndieGamesJp.dev Moderator

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