書籍「マンガとイラストでわかる!GPU最適化入門」ミニレビュー

2021年3月、株式会社ボーンデジタルから書籍『マンガとイラストでわかる!GPU最適化入門』が発売されました。

「GPU最適化」という書籍タイトルから、自作ゲームエンジンやDirectX直叩き勢の「ガチ勢」をイメージしてしまいがちです(筆者の主観あり)。しかし実際は、UnityやUE4などゲームエンジンを使っている人にこそ役立つ内容でもあり、ゲーム開発をしているインディーゲームクリエイター全般に役立つ書籍といえます。
書籍を手に入れましたので、ミニレビューをお届けします(文中の書籍の写真は、ボーンデジタルの許可を得て掲載しています)。

「自作ゲームの動作が重い…」が物語の切り口

物凄く見たことあるレイアウトの即売会から物語は始まる

本書は、インディーゲーム開発者にとって非常に有用な一冊になっています。

本書は冒頭とエンディングがコミックスになっています。冒頭から、ものすごく既視感のあるインディーゲーム即売会会場の絵が出てきます。そして、主人公たちは学生ゲーム開発者で、ゲームがなかなか注目してもらえないのは絵がカクついているからでは…という疑問を持つところから物語がスタートします。

冒頭で個人的に「金言だな」と思ったセリフは、「プレイヤーが良いパソコンを持っているとは限らない」というものです。ゲームを手に取ってくれる人たちのプレイ環境は、リッチとは限らないわけです。実際、主人公たちはデスクトップ環境で作っていたゲームをノートに持ち込んで展示を行い、そこで初めてパフォーマンスの低さに気が付きます(持論としても、動作環境は低スペックノートでも見てみることをお勧めしています)。

ゲームエンジンを使っている開発者にこそ役立つ知識

ゲームエンジンは、描画に関わる専門的な知識が無くてもゲームが開発できる一方で、知らず知らずのうちに重い処理になってしまうことがしばしばあります。GPUの仕組みを理解せずにゲームが作れるということは、裏を返せば最適化するためにGPUを知らないといけないわけです。

「半透明の処理は重い」とよく言われていますので、皆さんもなんとなく半透明処理を減らす、ということはしたことがあるかもしれません。本書では、なぜ処理が重いのかをレンダリングパイプラインから詳しく知ることができます。

たとえば、ゲームエンジンの設定項目でも出てくる「ディファードレンダリング」「フォワードレンダリング」など、言葉は聞いたことあるけれど詳しい違いについては疎遠なままだった部分についても、丁寧じっくり解説されています。それによって、エンジンの設定項目が何を変えるものなのか、内部でどう動いているのかが見えるようになってきます。

完全初心者向けではなく、初級を脱出するための書

本書は全編マンガではなく、説明パートは「キャラクター掛け合い型のホームページ」のような構成になっています。また、サンプルコードがモリモリ出てくるタイプではなく、あくまで図と表で「ゲームの描画はどういう順番で処理されているのか?」ということを解説します。

ただし、ゲームグラフィックスの全くの初心者向けとしては少々難易度が高いです。初級を脱出するために読む本、という位置づけに感じました。序盤から「シザリング」「深度バッファ」「ラスタライズ」など、ゲームエンジンでは隠蔽されがちな処理の用語も次々に登場します。分からない用語はまず本書の後ろにある「用語集」を読み、またwebで単語を調べながら読むと良いでしょう。

たとえば「ゲーム制作者になるための3Dグラフィックス技術」など、初心者も視野に入れた書籍を合わせて読むことで理解が早まります。これを機会に、ゲームグラフィックスの基礎と応用をがっつり頭に入れると良いでしょう。

実績のある著作陣

著者の小口 貴弘氏は、SIEでグラフィックス関連の開発に従事し、現在はデンソーで同分野の研究開発をされています。CEDEC2016では、「GPU最適化入門」という講演を行っています。https://cedec.cesa.or.jp/2016/session/ENG/6483.html

イラストも担当する共著のヨシムネ氏は、ブログなどでBlenderやUE4、Vulkan APIについての情報発信も行っている人物です。

https://note.com/m_yoshimune

インディークリエイターとして目を伏せがちなグラフィックスの知識について、イラストで楽しく体系だって学べる書籍です。グラフィックスのパフォーマンスアップを図りたいクリエイターは、ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

目次は以下の通りです。


・基本のGPUとレンダリング説明
  1章 GPUパイプラインっておいしいの?
  2章 絵作りはレンダリングパイプラインを組む!
・観測とボトルネックフレーム発見手法
  3章 どれが遅いフレームか、観測してみよう
  4章 ボトルネックを探れ!
・最適化事例
  5章 やってみよう、最適化の実践手法
  6章 理論からの最適化をしてみよう
・新しいGPU機能と将来の見込み
  7章 新しいGPU機能って必要? 面倒?
  8章 これから将来どうなる?

https://www.borndigital.co.jp/book/21154.html

なお、本書は実書籍のほか、電子版がボーンデジタル公式サイトで発売中です。4月末まで「1,100円」の特別価格で購入可能です。

【PDFダウンロード版】マンガとイラストでわかる!GPU最適化入門 – ボーンデジタルオンラインブックストア
https://wgn-obs.shop-pro.jp/?pid=157654785

以下は余談

こんな人が現実にいたらすぐ係員に知らせましょう

ちなみに、こんな言い方でゲームに意見する大変失礼な人は実際います。もし現実に出会ってしまったら、さっさとお引き取り願いましょう。しつこい場合はイベントの係員に相談してつまみ出してもらいましょう…。

igjd

IndieGamesJp.dev Moderator

おすすめ

1件の返信

  1. 小口貴弘 より:

    一條さん、ご紹介ありがとうございます!大変恐縮です。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です