これまでインディー開発者たちが発信した「マーケティング」ノウハウを集約。まずは自分にマーケティングしよう!【CEDEC2021】
海外のカンファレンスで指摘されてきた「インディ開発者向けのマーケティング」を整理して提示した講演をレポート
8月24日から8月26日まで開催されたCEDEC2021の中で、3日目の講演「ゲームを作り始める前の「マーケティング」を考える」をお届けします。この講演はCEDEC以外にもGame Industry Conference/REBOOT Develop/Sweden Game Conferenceなどで講演経験のあるアトリエサードのゲームジャーナリスト/シナリオライター徳岡正肇氏によって行われ、海外インディーカンファレンスで数多くのインディーゲームクリエイターが発表した内容を聞くことができる内容となっています。海外のインディーゲームクリエイターたちがどのようなことを考え、発言していったかのか、さっそく見てみましょう。
開発者はマーケティングをなぜ考えるのか
まず徳岡氏は、よくある理解としてマーケティングは「広告」や「ユーザー調査」などに限定したものではない、としました。マーケティングとは決して宣伝だけではなく、ゲームとユーザー、そしてそのユーザーを取り巻く社会をつなぐものであると解説し、とても重要であると述べました。
それは、現代のゲーム体験はゲームの中の体験だけでなく外の社会ともつながっており、SNSや動画配信を通じてユーザーも把握できないほどゲームの外にまで広がっているからであると徳岡氏は解説します。そのような状況下で。ゲーム開発者がゲームの外のことを考えずにゲーム開発を行うのは「危険」ではないかと考えているそうです。ゲームの外の動きをとらえるのにはマーケティングが有用であると考えたことが、本講演を企画するに至ったと語りました。
続いて、徳岡氏はインディーゲームの宣伝において、開発後に宣伝を行おうとしても著しく費用対効果が悪いと述べました。個人開発者が開発後に宣伝をおこなってもなかなか成果に結びつかない現状を指摘し、それであれば開発前や開発中にできることを考えながらゲーム開発に臨むほうがよいと解説しました。
最後に、遊んでくれる人はだれか?を考えると、実はゲームに一番最初に触れるのは自分であり、なぜ自分はどうやってどんなゲームを作ろうとしているのか。を自分自身に向けてマーケティングを行う必要があると徳岡氏は説明します。さらに、個人開発者の開発が完成に至らない原因も自分自身に対するマーケティング不足にあるのではないか…。と指摘しました。
1:ゲームを作る目標を短い言葉にする
徳岡氏は、これまで数多くの海外カンファレンスなどから得た知見を12個にまとめて順番に紹介しました。知見の1つ目は「ゲームを作る目標を短い言葉にする」であり、これは11bitStudio(『Frostpunk』などを開発)のマーケターの言葉です。
なぜ自分たちはゲームを作るのかを短いスローガンにまとめることで、チーム内の意思統一を図ることができると徳岡氏は言います。また、人間は忘れやすい生き物であり、「なぜこれを作っていたのか」を忘れないようにする必要があり、例えばそのスローガンを壁に貼っておく。といった例も徳岡氏は挙げています。このスローガンは「開発者の情熱」を書くのではなくその情熱は何であるかをスローガン化することが大切であり、ほかの開発者も情熱をもって開発をしているので単なる情熱では差別化ができないとしました。
冒頭にあげた11bitStudioのスローガンは「MAKE YOUR MARK」(お前の心に傷跡を残す)であり、同社のタイトルは印象に残る、つまりプレイヤーの心に傷跡が残るほどの印象を残すタイトルとなっており「MAKE YOUR MARK」は同スタジオの全体のスローガンとなっていることがわかります。
2:マーケティングはゲームの一部
続いて徳岡氏は、マーケティングはゲーム体験の一部となっており、ゲーム体験の外(学校でのゲームの会話や、ゲームセンタでの体験など)にも広がっていると説きます。したがって、ゲーム発売前に公開されるPVやスクリーンショット、ツイートなどもすべてゲーム体験であり、そこに世界観が表現されユーザーに伝わるかが大切であるとし、例として11bitStudioのタイトル『This war of Mine』のスクリーンショットを挙げています。(下画像参照)
画面左上のバックパックとはアイテムを収納するインベントリのことなのですが、これをインベントリと書かずに主人公がおかれた環境(敵軍に包囲された都市で食料や医薬品が不足し、スナイパーや敵意あるほかの生存者を相手に生き残ろうとする一般市民が主人公なので、インベントリでなく主人公が背負うバックパックである)を表現できているかが大切であると徳岡氏は説明し、同時に見せてはいけないものを意識することも大切で、まだ世界観が定まっていないものや、開発初期段階などの物を見せてしまうと世界観がうまく伝わらず誤解を招く恐れがあり、注意すべき点であると解説しました。
3:取捨選択と、戦場の選択
ゲームには予算がありできることは限られているので、やるべきこととできることに目を向けること、目標とできることを照らし合わせて取捨選択をすべきであると徳岡氏は述べます。多く見られるケースとしては取捨選択の重要性を説くと、取捨選択のみをしてしまうことがあり、目的と手段を誤ることが多くなってしまうとしています。例えば、最初から目標を決めずに自分たちは個人開発だから小規模でニッチな市場を選んでその市場に合ったゲーム開発をするというのは手段を達成するために行動しており、これは目標を達成するようにはなっていない。といいます。
また、市場の選択とは自分たちがトップになることができる市場を選ぶことだと徳岡氏は述べています。トップをとっていることでパブリッシャーなどに与える印象も異なると徳岡氏は述べ、ゲームに勝つコツはまず勝つことである。と故鈴木銀一郎氏(モンスターメーカーなどを開発)の言葉を引用しました。勝つために悩むよりとにかくチャレンジをしてまず勝つことである。勝つことで、さらに勝利を引き寄せることができると述べ、自分たちが勝利を収めることができるの場所を選ぶことの大切さを解説し、11bitStudioも『This war of Mine』開発の際には映画祭で勝てるゲームの開発を目指したと解説をしました。
4:セルフブランディング
我々の多くは特別な個性を持っているわけではなく、2で述べたようにゲーム以外の情報発信もすべてゲーム体験であるのが現在社会ですが、ゲーム以外の情報発信が面白くなるには多大な努力が必要になります。ところが、それを商品価値があるくらいに面白い情報を発信するのは非常に大変であると徳岡氏は述べ、その解決策としてイギリスのパブリッシャーの「暴力的なわかりやすさ」は有効であるという言葉を引用しています。(暴力的という単語はおそらくviolentであると思われ、この単語には非常に激しいという意味がありますのでそのように読み替えてください)
そして、ポーランドのインディーディベロッパーRobotGentlemanがゲームイベントにゲームコスチュームを着て参加している写真を例に、同ブランドの認知を高めていることを挙げています。そして、このコスチュームはイベントの時だけ着用しており、またそんなに凝った物ではないので手軽に取り組めるとイギリスのパブリッシャーが述べていると解説しました。
5:自分のゲームを見つけられるか
自分のゲームがプラットフォーム内に埋もれてユーザーに見つけてもらえなくなる問題は、多くの開発者の悩みだと思いますが、開発する前にSteamのタグを研究することは有効であると徳岡氏は述べ、『Deadcells』『HADES』『Noita』のSteamタグを元に解説を行いました。
各タイトルに約20個のタグが並び、ユーザーがそれぞれのタイトルにどのような要素を期待しているのかがおぼろげに見えてきます。開発者は個性のあるタグを選びがちですが、それでユーザーを呼び寄せられるのかを考えることや、他のゲームでのタグを見ているとユーザーがその作品の何を求めているのか(『Noita』の「カスタムガン」タグなど)や、ユーザーが自分が探し求めているゲームを見つけるためのタグに気づくことがあり、自分のゲームを見ながら何か足すことはできないか考える参考になると徳岡氏は解説しました。そして、徳岡氏は自分のゲームの面白さを100文字で解説することの大切さについて触れ、これはSteamのタイトルのページ右上にある解説(カプセルと呼ぶ)が100文字程度であり、どんなゲーム体験ができるのかどんな面白さがあるのかを書くことが重要だと語りました。そして、Steamで勝つためには売れているほかのゲームのページなどで「似ているほかのゲーム」として紹介されることで勝つことにつながると解説しました。
6:いつでもリリース可能な構造
これはFinjiのディレクターAdam Saltsman氏の言葉で、徳岡氏も言うのは簡単だが…と前置きしたうえで画像を見ながら解説を行いました。(下図参照)
「いつでもリリース可能な構造」は、図の下のようにどの開発段階でも利用できる、つまりゲームが遊べるように開発をすることを指しますが、これは多くの開発者も「それはそうだと思うけど…」と感じたのではないでしょうか。
これがインディゲームクリエイターに重要なのは多くのゲームショウへの出展し露出の機会を作るほうが良く、そのためにはどんな開発段階でもプレイできるようにして出展回数を増やす狙いがあります。これが難しいことはSaltsman氏も理解しておりこれを実現するにはユーザーがコンテンツを作るサンドボックス型のゲームであれば、画像下のゲームになりやすいとしています。とはいえ、サンドボックス型のでゲームは展示会ですぐに反響を得づらいこともあり、徳岡氏は企画段階でよく考えることが重要だと説明しました。
7:クリエイティブなリスクを負う
こちらもSaltsman氏の言葉で、そのコストをかける必要は本当にあるのかを深く考えなくてはいけないという意味で、これはインディー向けの指摘になりますが、自分のゲームが既に存在するAAAタイトルのような高品質なアートやデザインを真似るためにコストをかけることは意味があるのかを考える必要があり、それよりは自分のゲームがほかのゲームと違うゲームになるウリのポイントをつくるためにクリエイティブなリスクをべきだと徳岡氏は解説しました。そして、このクリエイティブなリスクはなぜこのゲームを作るのかとリンクしなくてはならないと徳岡氏は説き、そうしないと自分がなぜゲームを作るのかという目標を忘れて、深夜や早朝に思いついた奇抜で(自分は)素晴らしいアイデアだと感じたものをゲームに追加してしまうからだと解説しました。
8:何を作らないかを見定める
これはノルウェーSarepta studioの言葉で、作りたいもの、作れるもの、作らないものの3つについて企画段階ではっきりさせることはマーケティング段階で重要で、作ると約束したりディレクターがインタビューで何気なく言った言葉がユーザーの心に刺さって期待感が高まってしまうことが起きることはこのSNSの時代において、問題を引き起こしやすくなるので、何を作らないかを決めることは大切であると徳岡氏は解説します。
また、何を作らないかについては、ゲーム中でキャラクターの行動をすべて描写する必要がないことや、『my child lebensborn』のように行間を読んでキャラに何が起きたかを推察するゲーム性はゲームデザインとマーケティングに有効な効果を発揮すると語りました。我々は、右の三角形を見ると黄色の三角形に白い丸が重なっているように解釈してしまいますが、実はこれはだまし絵のようなもので、3つの黄色の矢印を配置しただけなのです。(下図参照)
しかし、人間はこの空白を創造してしまう能力があり、またこの空白について人に語りたい性質も持っていると徳岡氏は説き、これは最強かつ最高のマーケティングツールとなると述べ、作らないものを決めて作らないものをうまく浮かびがらせるようなものの組み合わせは将来強烈なバイラルを生むことができるとしています。また、これはblizzard entertainmentも同様の見解を述べています。一方で、徳岡氏は我々の想像は現実に起きたことに届かないことが多く、バイラルさせることや想像させることに執着するあまりに、現実に届いていない想像に何のケアもしないのは悲惨なことになる恐れがあり、企画段階でよく考える必要があると述べています。
9:シェアしやすい絵を作る
動画の強さを意識することはもちろんですが、ユーザーは動画プラットフォーム内を回遊する傾向があり他の動画に行かない(YouTubeならYouTube。twichならtwich)ことを意識する必要があると語りました。一方Twitterは様々なユーザーが訪れ短時間の動画を楽しむ(短いgifアニメなど)傾向がありますが、Twitterの画像添付は4枚までという制限があるのでTwitterでの広報は4枚でドラマを描く工夫が必要になると徳岡氏は解説しました。
10:独自性をHW(ハードウェア)依存させない
こちらは、ポーランドGICのヤクブ氏の指摘です。
独自性はあらゆるゲームのストームポイントだが、この独自性が特定のハードに依存していると強みにもなり弱みにもなると徳岡氏は述べました。例えば、1台のスマートフォンを2人で遊ぶというゲームはスマートフォンでは特別なゲーム体験ができるが、もしスマートフォン市場で失敗した時に、他のハードウェアではプレイが難しい。他のハードでも発売ができるようにすることで、そのゲームの生存性が変わると徳岡氏は言い、また、他ハードでの展開は思わぬ出来事をもたらすと解説しました。
例として『Moon Hunters』のSteamの売れ行きを例に挙げ、他のハードウェアでリリースした時にも売上が伸びる現象が確認されています。これはヘイロー効果と呼ばれ、ゲーム以外のジャンルでも発生している。これらのことから、様々なハードウェアでリリースできるようなゲーム開発を念頭に置く(キーボードとマウスに依存するのも危険である)のが重要であると徳岡氏は解説しました。
11:あなたは変人ではない
「自分は変人だから世間にわかってもらえない」とは考えず、良い人であろうとすることが常に最適戦略であると徳岡氏は述べました。人間はだれもが少しづつ変わっている点があり、自分が変人である可能性は低く(10万人に一人の変人でも日本全体でみれば1000人もいる)、世間にわかってもらえないと主張すれば世間は当然遠ざかっていきます。それよりは良い人であるように努めたり、人とコミュニケ―ションを取り自分のゲームを伝える努力をするほうがユーザーにも一緒に開発しているメンバーにも良い効果をもたらすし、イベントでは思いがけない人に出会うことがあるので重要であると徳岡氏は解説しました。
12:Steamの資料を読む
こちらは、プレイズム水谷氏の言葉です。Steamのマーケティング資料は非常に良いものだが、どこにあるのかわかりづらいと徳岡氏は述べました。今まで見たことがないディベロッパーも多いかと思いますが、徳岡氏はどこにあるかを解説してくれます。(下図参照)
https://partner.steamgames.com/doc/marketing
水谷氏もこの内容を熟読したとのことで、参照してほしいと徳岡氏は述べました。
最後に、徳岡氏は海外パブリッシャーとの会話の中においても「インディーディベロッパーにマーケティングの話をすると嫌そうな顔をする」と自身の体験を交えながら語りました。しかし、ゲーム体験はゲーム内だけでなくゲームの外に及んでいる現代において、ゲームの外のことを考えるのに有効であるマーケティングを一切考えずにゲーム開発を行うことは「危険」であるといいます。まずは自分自身(やチーム)へのマーケティング「我々が今から作ろうとするゲームは何が面白いのか」をチーム内で共有し考えることは重要で、個人開発でも自分へのマーケティングを行わなければゲームの面白さがブレてしまうと論じました。
なお、こうしたマーケティングの講演では「N個のノウハウ~~」などと題したセミナーがよくあります。徳岡氏はこのセッションも含めて、その「N個」だけを順番に実施すれば良いわけではないことを強く主張しました。こうしたものは、あくまで「どういう目的をもって」「どういう行動をするか」を考えたうえで採択するべきで、タイトルそれぞれに適したマーケティング施策をつくる必要があります、と徳岡氏はこの講演を締めくくりました。
この記事をご覧の開発者の皆さんは、自分自身にマーケティングを行ない、「今から作るこのゲームは何が面白いのか」を考えてからマーケティングを行うという着眼点は聞きなれない所もあるかと思います。ゲーム開発は内容によっては長期間に及ぶこともあり、その間に「実装しないほうがよかった機能」を実装してしまったり、後から思い返せばユーザーが言ってくれたあの機能を実装したほうがよかった。などの後悔はゲーム開発をしていると経験することがあると思います。本公演はそういった後悔を経験された方にはより伝わる内容でしょうし、また、これからゲーム開発に臨む方にも示唆に富んだ内容になっているのではないでしょうか。
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※上記セッションに終了後に実施する「Ask the Speaker」に関しては、規約に従い本記事では取材をしておりません。