【Unreal Fest Tokyo 2023】「UEインディーゲームクリエイター座談会 アート編 2023」レポート
Q:今のスタイルに辿りつくためにどういったことをしましたか?
「本作の3キャラは、実は同じ素体を使っていて、差別化するにはシルエットで差を出そうと考え、耳やしっぽなどをつけるため、動物にした」アラさん
ゲームのアートスタイルをインディーゲームクリエイターはどのように決めているのでしょう。なかなか答えの出ない深い問いです。まず、アラさんの場合は兼業クリエイターのため、時間や経験の制限もある中で、特徴のあるキャラをどう作るかを考えたとのことです。本作の3キャラは、実は同じ素体を使っていて、差別化するにはシルエットで差を出そうと考え、耳やしっぽなどをつけるため、動物にしたという経緯もあったとのことです。
色合いもわかりやすく差別化しており、キャラクターの目の大きさを大げさな表現として使用。大きな目は細めたりすると印象が変わるので、これも差別化につながったと言います。
halkingさんは、Illustratorでアートをまず描き、PhotoShopで重ねて作るスタイルで制作をしており、久井さんと相談しながらスタイルを決定していったそうです。中でも、光や2Dで描けないエフェクトなどは難しく、厚みを持たせた世界観表現に試行錯誤をしているそうで、サイバーパンクの暗さや色味をどうゲームで再現するか、二人で模索していると語りました。
化け猫00さんは、路地裏を実際に歩いて写真を撮り、地形を理解することからスタート。空間を把握し再現できるように努めています。また、街の色合いは現実の色は白が多いが、色合いを暖かくするために茶色などを使うように心がけたとのことです。キャラクター描くために、家族構成や性格、誕生日などのバックボーンを組み立て、着る服などを想像できるようにしていったとのことです。
Q:インディーゲーム開発を行う中で、Unreal Engineを選んだ理由を教えてください。
「Twitterで自分が作りたいような作風のクリエイターをフォローし、そのクリエイターのツイートをさかのぼっていく中でUnreal Engine4を知った」化け猫00さん
ゲームエンジンは何を選ぶか。これもまた終わりのないテーマです。まずアラさんは、仕事でUnreal Engineを触る機会があり技術を習得していったそうで、その時はUIデザインのみを習得しましたが、もっと学習することで自分でモノづくりもできるし、仕事にも生かせるのでは?と思ってUnreal Engineを選んだとのことです。
化け猫00さんの場合は、ゲームを作ろうと思ったときはゲームエンジンのことを知らなかったそうですが、Twitterで自分が作りたいような作風のクリエイターをフォローし、そのクリエイターのツイートをさかのぼっていく中でUnreal Engineを知ったとのことです。それが『水瓶上のフェルマータ』でした。
https://game-creators.camp/works/UMYqRrQR7nCtZtZx07A0
久井さんは、仕事で様々なゲームエンジンに触れた経験の中から、Unreal Engineを選んだと話しました。ネイティブでC++を書いたりもした経験の中で、Unreal Engineはエンジンのソースコードを直接触ることができ、何かあっても自分で直すことができることや、PC、モバイル以外にコンソール展開もできることも魅力だったと語りました。サポートの充実もよかったとのことで、経験を踏まえてUnreal Engineを選んだことがうかがえます。
Q:アートスタイルを実現するためにUnreal Engineでどういう工夫をしましたか?
3者それぞれで異なるアートスタイルも、Unreal Engineの力で実現されています。久井さんは、『浮世/Ukiyo』の背景は全体は2Dになっているが、建物など部分部分をSPINEでアニメ化して制作しており、ぱっと見は2Dだが中身は3Dという構成になっていると話しました。そのため、キャラが移動して画面がスクロールする際には、2Dの背景がゆがんだりしないようにカメラを固定し、キャラがただ単に横に歩いているように見せるために、カメラの幅を広げたり画角を合わせて調整したそうです。登壇スライドには数式も登場し、実は様々な取り組みをしていることも明かしていました。
アラさんは、「PureRef」というリファレンス画像を集めるサービスを活用して、アートスタイルの参考資料をまとめて参照したと言います。また、色や参考になる画像を集めて、レベルデザインの役に立ちそうなフィールドの画像などを常に見えるところに置き、世界観がブレないように工夫したとのことです。
化け猫00さんの場合は、特徴的なアートスタイルの実現にはかなりポストプロセスに頼っているとのことで、中でもGithubで無償公開されている「Retro Shader Pack by DaveFace」を重用しているそうです。画像の粗さを狙って出せたときがうれしかったとのこと。UIにはポストプロセスがかけられないので、背景になじむように調整をしたと、自身のスタイルに合わせる工夫を行っています。
Q:外注やアセットはつかっている?
化け猫00さんは、マーケットプレイスの利用はインベントリシステムを使っており、アセットはあまり使わず制作をしています。空や蒸気の表現はUnreal Engineに入っているものを使用しており、いずれは自分で作ってみたいと今後の抱負も語りました。
久井さんの場合は、マーケットプレイスのアセットは雷のパーティクルを少し使っているほかは、2Dアーティストが全て手描きをしているそうです。
アラさんは、Chameleon Post Processを使用して、カメラの被写体深度などの調整も行っています。3D系のアセットを使用していると個性が出しづらい点や、自作のキャラとモデルとどうやってなじませるかが課題だと感じているそうです。
Q:ゲーム開発のモチベーションをどのように維持していますか?
「最近は焦りが原動力にもなっている」化け猫00さん
化け猫00さんは、全て自作で開発するスタイルの原動力について、最初は自分のゲームを完成させたいという気持ちだったと言いますが、最近は「焦り」が原動力になっているとのことです。似たようなゲームが出たらどうしよう、という焦燥感があると語ります。
久井さんはモチベーションは、製作途中にあるため、新しいものを作っていて楽しいと言います。勉強することもあって今のところ意欲もあると現状を分析しています。halkingさんは普段は受託の作業が多いとのことですが、受託の仕事では独自性を出し切ることができないため、自分たちの作品を作りたいという気持ちがモチベーションになっていると語りました。
近い立場のアラさんも、halkingさんのコメントに同意します。本業はすなわち受託作品と同じなので、それと違うものを作りたい気持ちが高まると話しました。イベントへの参加も、同じように頑張っているインディーゲームクリエイターを見ることがモチベーション維持になるとのことでした。
化け猫00さんのユニークなモチベーション維持方法として、「時間に余裕がないときにはできない」と前置きしつつ、完全に一旦制作から離れる方法を挙げています。好きな本を読んだりゲームをしたりして意欲をあげ、制作をしたいと思ってもインプット期間は開発をせず、意欲を最大限まで高めてから制作に臨むとのことです。最近の例では、5日だけゼルダをやって、再び制作に取り組んだりしているそうです。焦りがモチベーションになっている化け猫00さん。その中でも、インプット期間を設け、開発に取り掛かろうとする気持ちを抑えるのは強靭な精神力と言えるのではないでしょうか。
開発スタイルの違いが表れた個別質問
Q:アラさんへ。本業との兼業はどのようにしていますか?
兼業でインディーゲーム開発をやってるだけでもすごいこと アラさん
第一声は「とにかく無理をしないこと」とアラさん。勤務先にインディーゲームを作っている人もいて話を聞くと、休日に集中できなくて自分はダメだと落ち込む人もいるけど、すごく真面目で、そんなに自分を追い詰めないでいいんじゃないかと思ったと体験を語ります。兼業でインディーゲーム開発をやってるだけでもすごいことなので、生活に変化があれば休んでもいいと思うし、イヤにならず続けることだと思いますと語りました。
Q:コンセプトを決めたとき、どこから作りましたか?
アラさんの場合は、「こういうゲームシステムを作りたい」と言うより、キャラを動かしたいという思いがあったので、最初はテンプレートのグレーマンを入れ替えて作ったと述べています。その後、YouTubeなどで解説している動画を元に制作を進めたとのことです。
化け猫00さんは、まずストーリーが先にあったのですが、キャラクターを自分で作るのは難しかったと振り返ります。最初は街並みを作ることからはじめ、街や家のデザイン、マップからゲーム開発を進めていったとのことです。
halkingさんはコンセプトアートを作っていき、その後ゲームの世界、キャラを含めて制作してから落とし込む方向性だったと語ります。
Q:プロモーションはどのようにしていますか?
『浮世/Ukiyo』チームは全てパブリッシャーである集英社ゲームズに任せていて、イベント出展などの設営もお任せとのことです。
逆に、独立した開発者である化け猫00さんの場合は、プロモーションの一環として原画説明書を制作。今後は3Dプリンターで小さいフィギュアを作ってファンに届けたい、と抱負も語りました。
多種多様なバックグラウンドを持つインディー開発者が語ったセッション
今回の座談会はバックグラウンドや規模感が異なる作家を集めてさまざまな視点を来場者に見せよう、という意図を感じました。インディーゲームの開発は、完全に個人で時間をじっくりかけてもいいし、チームアップしてパブリッシャーからの資金提供を受けてガシガシプロダクトとして作りこむスタイルもあります。ゲーム作りのスタイルに正解はなく、自分の実現したいことに沿った方法を選んでほしい…という主催側からの意識を感じました。
インディーゲームクリエイター座談会、次回はどのようなテーマで開催されるのでしょうか。開催を期待して待ちたいと思います。