ベテランサウンドクリエイターによる、UE4サウンド実装のコツ。「ゲームエンジンが変えた ゲームサウンドのアウトソーシングとその課題」[CEDEC2020]
2020年9月2日から4日にかけて、ゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC2020」が開催されています。今年は新型コロナウイルスの影響によりオンライン開催に変更となっています。その中で、ゲームエンジンがもたらすサウンドクリエイターの役割の変化についてのセッションがありましたので、取材を行いました。
ゲームエンジンが変えた ゲームサウンドのアウトソーシングとその課題
http://cedec.cesa.or.jp/2020/session/detail/s5e3a3a1530e28
サウンドクリエイターの視点から、ゲームエンジンをはじめとしたさまざまなツールが企業や個人の垣根を越えて共通知となっていること、これによる業務の変化などを紹介しています。具体例として、ゲームにサウンドを組み込む際の注意点についても多くの知見を公開されました。
講演資料はCEDiLにて公開されています。
※本記事は、CEDEC運営委員会の「CEDEC取材規定」に従い、メディア事前登録・執筆・公開を行っています。
サウンドアウトソーシングの歴史
本セッション発表者の株式会社プラスシグナル代表 大久保悟氏は、コナミ、カプコンで20年以上にわたりサウンドデザイナー・サウンドプログラマーとして活躍した人物です。会社に勤められていた頃は、若手育成にも携わっていたそうです。その後、2017年に独立。社内での制作(インハウス)からアウトソーシングされる側に転向しました。現在は、Unreal Engine 4の仕事が9割以上なのだそうです。
今回の登壇に至った経緯としては、2017年のメディア取材にて「UE4でサウンドのアウトソーシングが変わる」という記事がきっかけのひとつとのこと。
当時は独立したばかりでしたが、「実際にこの2年半仕事をする中で実践できた」ということを共有しようと思い、公募への提出を決意したそうです。
2015年にUE4が無償化し、同時期にUnityのサウンド機能も大幅に更新されました。そうしてゲームエンジンが高機能なサウンド再生システムを内包したおかげで、将来的にゲームサウンドの構築の上で共通言語になるのではないか…というのが大久保氏の提案です。汎用ゲームエンジンが「サウンドの実装」に関する知見のオープン化を促し、個人・会社を問わず共通の知識となっていきます。
大久保氏によると、全部の音をサウンドクリエイターが実装するわけではなく、多くても9割実装・少ない場合は3割ぐらいとなっており、タイトルの構造によりけりだそうです。つまり、「すべてのサウンドクリエイターが、ゲームエンジンを直接触ってゲームへ音を実装しよう!」という主張ではなく、サウンドクリエイターがゲームエンジンの仕組みを理解していると、コミュニケーションが円滑になる…という考え方です。
汎用ゲームエンジンやツールの普及で、「ゲーム開発に必要な知識」そのものが会社クローズドからオープンなものへ大きく変貌しました。サウンドの実装についてもオープンとなり、エンジンやツールを介して、個人・会社を問わず共通の知識となっています。これによって、中小のゲーム開発会社が活発化します。共通ツールを使うので、中小企業やフリーランスの連携がしやすくなります。また、昨今ではゲーム以外の企業で汎用ゲームエンジンを使うケースも多く、サウンドの実装ができるサウンドクリエイターの活躍の幅が広がっています。
今どきのサウンドクリエイターのお仕事とは?
今どきのアウトソーシングされたサウンドクリエイターの具体的な作業内容はどのようなものでしょうか。
ひとつは、多くがリモートワーク化しているということです。ゲームへの実装をサウンドクリエイターができることにより、PerforceやSubversionを介した業務が可能です。大久保氏は、新型コロナウイルス影響の以前からリモートワークがあたりまえの環境で仕事をしていたそうです。ただし「短期集中作業」として、直接訪問して実装する場合もあるそうです。
もうひとつは、サウンドクリエイターとして行う仕事の多様化です。作業内容は、WAVEファイルの作成の他、「ゲーム内で同時に鳴っていい音の上限値」「カメラやプレイヤーから離れた時にどれくらい音を小さくするか」「大量に音を鳴らしたい時の再生の優先度」など、サウンドミドルウェアを利用する場合でもこれだけの仕事があります。
さらにゲームエンジンまで手を入れられる場合は、直接エディタを触ってゲームに音を実装していきます。
UE4の場合は、Animationへの音付け、レベルに環境音やリバーブゾーンを設定、Sequencerへの実装などが挙げられます。
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