【CEDEC+KYUSHU 2023】「コンセプトを絶対神とする狂信的ゲーム制作のすすめ- 『違う冬のぼくら』制作事例をとおして」講演レポート
具体的なものに面白さを担保させてはいけない
注意点として、ところにょり氏は具体的なものに面白さを担保させてはいけないといいます。たとえばストーリーの良さやキャラクターのセリフ回し、手触りの良さやUIの分かりやすさ、戦闘の楽しさのようなユーザーが最初に触れる部分だけに面白さを担保させてしまうと、中身がないゲームになると指摘します。この講演では、いかに自分が信じられるコンセプトを作るかに主眼が置かれていることもあり、ユーザーが最初に触れる部分に注力して完成したゲームのはコンセプト以外に面白さが担保されされてしまうので、精神衛生上良くないと、ところにょり氏は考えているようです。コンセプト地図を作る時も、ところにょり氏は、中心に近いコンセプトから始めるそうで、ナラティブやグラフィック、ゲームプレイ構成要素のような周辺に依存せず、自身の心に響く部分から始めるのが一番だとのことでした。
次の段階でところにょり氏は、中心コンセプトをまずは限界まで広げると言います。広げるとはコンセプトによってゲームの構成要素をどこまでを決めるかを考えることで、『違う冬のぼくら』の場合は、二人の見えてるものが違うゲームというコンセプトを広げることでゲームの構成要素を決めていったそうです。ナラティブが二人の物語となり、グラフィックがそれぞれ二つ必要となり、ゲームプレイは二人で協力するデザインとなったとのことで、中心のコンセプトがゲームのどこまでを支配しているのかを意識し考えることが大切だといいます。
つながりを意識して空白を埋めるコンセプトを作る
コンセプトを限界まで広げた後は、残った空白を意識し、空白の中に何を入れられるかを考え、他のコンセプトを当てはめていくと、ところにょり氏は解説します。『違う冬のぼくら』であれば、ナラティブの面で、二人の物語であることはで決定されていますが、二人の関係を『It takse Two』のような夫婦が離婚するストーリーにも「スタンドバイミー」のような二人の少年の家出の話にもできそうです。今回は自身が「スタンドバイミー」が好きだったこともあって、少年の家での話にして一番中心のコンセプトとつなげるように作ったと述べています。
また、二つの世界で異なった見た目を用意する必要もありました。ロボットのグラフィックについては、ところにょり氏がこれまで作ったゲームの世界観にロボットが出てくることが多かったことや、手塚治虫氏の「火の鳥復活編」において世界の全ての人間がロボットに見えてしまうストーリーを意識していたとのことです。そして、片方がロボットの世界であればもう片方はできるだけ可愛くて有機的な世界にしようということで、絵本の世界のような全ての人が動物になってるような世界にしたとのことでした。
最後のゲームプレイでは、二人で協力することが決まっていたため、アクションゲームやパズルゲームなどの方向で考えていたそうです。プレイヤーのターゲットを夫婦やカップルなど二人組を想定していたため、片方はゲームうまいけど、片方はそんなに上手くない場合も踏まえて、難易度を適切に作らないと面白くならないかもしれません。その上で、パズルゲームであれば二人で協力でき、一人がパズルが得意ならもう一人はサポートで回ることもできること、サポートされる側も自分の世界を相手に適切に伝える楽しみができるなら、ゲームとして面白いものになると考えたそうです。
面白いコンセプトの考え方
また、地図の「高さ」に当たる部分、「面白さ」をどう作っていけばいいかについて、まず自分にとって面白いコンセプトであるべきだと、ところにょり氏はいいます。多くの人の琴線に触れるコンセプトを作ることも理想ですが、他人が面白いと思うものを調べる行為は個人開発では難しいです。ところにょり氏は、自分が面白いと思うものを信じて作るしかないと考えています。
コンセプトには天然のコンセプトと養殖のコンセプトがあるといいます。天然のコンセプトは雷に打たれたように突然頭の中に浮かぶ優れたコンセプトで、養殖は自分の力で作っていくものを指します。ところにょり氏は、コンセプトを生み出すために無意識にやっていることとして、自身の好きな作品を抽象化して、コンセプトの種を抽出することを挙げています。自身が好きなゲームや映画、小説などの何が好きなのか、このシーンがなぜ面白いのかを分析しながら、作品の面白さを理解してコンセプトの種を貯めておくことで、アイデアを具体化する時、ナラティブに広げやすいか、グラフィックに広げやすいか、どういう風に広げたら面白くなるかをトライアンドエラーしながら作っていくことが重要だと述べています。
この地図作りやコンセプトを考える作業は「企画書制作」でもあり、ところにょり氏は自身の頭の中にあるこの面白いゲームに何が足りないのかをきちんと意識するために役立てているそうです。頭の中ではすごい面白かったけど、企画書に落とし込んでみたら凡庸だった、ということは結構あったそうです。ところにょり氏は自身の頭の中という自分に優しい場所から一回出して、企画書という現実に落とし込んで、企画をもう一度見直すのが重要だと述べています。
自身が狂信するようないいアイデアの出し方については、ところにょり氏は散歩や入浴時のぼーっとした時間の中で、脳の中の理性の部分が眠り面白さを探す部分が活性化していいアイデアが出ることがあると聞いたことがあるといいます。朝起きてすぐのまどろむ時間帯にアイデアを考えたり、瞑想をして考えることがあると体験を語りました。瞑想については、自分の頭の中を無にし、無の頭に自分のアイデアの問題点を入れるとあまり普段の頭では考えなかったことが思い浮かぶのでお勧めだとのことです。
プロモーションにもコンセプトは有用
最後にところにょり氏は、完成後のプロモーションにおいて触れました。最初に作ったコンセプトがキーワードとしてそのまま使えることがよくあるといいます。プレイした人が他の人に『違う冬のぼくら』を伝える時に、どういう言葉で自分のゲームを説明してくれるかを、最初の企画段階で考えておくのというもので、考えること自体が企画を良くすることに繋がります。ゲームをプレイした人が友達に勧める時に、どういう言葉で説明するか?を考えて出てきた言葉こそが、そのままプロモーションに使える単語になるといいます。
『違う冬のぼくら』は独特のプレイ感によって、ゲーム作家ところにより氏のさらなる進化を感じられた作品でした。おそらくこの「地図」の方法で、次の作品を練っている頃でしょう。このメソッドは多くの開発者に活用できるものだと思えます。ちなみに今回の講演でところにょり氏は心拍数を計測しながら登壇を行っており、時折数値を伝えるなど緊張度を伝えながらのお話となりました。ところにょり氏のユニークな発想力を体現されていて楽しく聴講できました。