Microsoft インディーゲーム部門担当マット・スミス氏が自身の開発経験を基にインディーゲーム開発を語る[CEDEC2020]
経験のない業務「人事」「マーケティング」「契約事務」とこれらの兼務
マット氏のFriend&Foe社はゲーム開発だけでなく、ビジネスに必要な要素の多くをマット氏が担当することになり、兼務が続きます。特にプログラマ2人のうち1人であるマット氏が他の仕事に手を取られることは開発が進まなくなる原因になったのではないかと推察されます。また、他の業務の中でも最も苦労したのが「マーケティング」でした。その様子を見てみましょう。
「マネジメントはディベロッパがインディゲームをやろうという時に慣れているような仕事ではないだろう。企業文化を新しく作ることもだ。でもインディをやることはそういった新しいことに挑戦するエキサイティングなことでもある。私の場合はプロデューサー兼プログラム兼ビジネスディベロッパー兼事務仕事兼人事…今までやったことのない仕事に関して学ぶことは多かったが、危険性もあった。自分が多くの仕事を負担すればするほど、それぞれの仕事で重要な問題が発生した時に対応できなくなってしまう。プログラマーは2人いて、1人が私だった。プロデューサーの仕事もしたのでプロジェクトに遅れが起こらないように見たり、他にもプレイテストを用意や、人間関係が関わる問題が発生した時は現実逃避的に、ロジックスクリプティングや『Vane』の鳥が飛ぶところを考えたいなと思ってしまった」
「私が経験した中でとても大変だったことがマーケティングだった。私たちのマーケティングの戦略はメディアから良いレビューを得ることで、『Vane』の内容は芸術性があってメディアからも好評を得るだろうし、ソニーとの関係もあるから店舗にも並べてもらうことができると考えていた。実際に『vane』は店舗に並び、その点はうまくいった。でもレビューは本当に苦労の連続だった。レビューには二つのタイプがあった。Eurogamerは芸術性を評価し、『Vane』を問題もあるかもしれない。けれども非常に面白いと評価してくれた。一方ソフトウェア製品としてみたtechraptorは『Vane』はバグがたくさんあるからプレイできないと評価した。腹立たしいことだった。私たちは『Vane』を芸術作品としていたからだ。でも、ビデオゲームはソフトウェアとしても成立していないといけなかった。こういった問題はマーケティングである程度改善できたのではないかと思う。広告を出すだけではなくツイッターやディベロッパブログを書くとか、どういうジャンルのゲームを作るかを決めることもマーケティングの一部だと思う。『Vane』はムードを楽しむゲームで、穏やかなタイプなのでマーケティングでカバーしないといけなかった。マーケターを雇えば良かったなと思っている。マーケティングは大変な仕事で時間をかければ勉強できるのかもしれないが難しいものだった」
「契約については、最初の売り上げが立った時からロイヤリティーが得られるようにしておかなければダメだと感じた。他にもパブリッシャーとの交渉でロイヤリティが50:50以下なら資金調達のところで信頼が得られていないということを示しているだろう。それからIPを自分達のものとしておくということは重要だ。これらの作業に関しては誰の責任なのかを明確にしておかなければいけない。パブリッシャーがテスティングとマーケティングをやると言った時もサインをする前にどんな風にしたいのか、自分達の意向をパブリッシャー側ときちんと膝を詰めて話をして最終的にパブリッシャーが得意なところをやってもらうようにすべきだ」
最後に
マット氏はこの講演を以下のように締めくくりました。
ゲームを作ることは素晴らしい。わたしも大好きなことだ。インディーゲームを作るときはリソースも”スコープ”も有限で、アイデアを膨らませてしまうが小さくはじめることと複数のゲームを作り続けることが大切だ。資金が常に入ってくるようにし、自分とチームの野心をコントロールすることだ。私からは以上だが、皆さんとインディーの話をしたいと思う。もちろんXbox Oneにゲームをリリースしたいという連絡も歓迎している。Twitterもやっているので何かあれば連絡してほしい。
質疑応答
受講者からの質問も有意義なものが多かったので、最後に掲載します。ご自身のゲーム開発に役立てていただければ何よりです。
●資金調達をする際にどうやって企業や担当者を見つけたか
『Vane』のデモを開発し、GDCで何度もピッチし、ソニーとディールすることができた。デモを開発するまでにTwitterでいろいろな人から連絡を得ることもできた。ハッシュタグ#PitchYaGameではいろいろな出会いがあるだろう。
●ソロでゲームを開発する人はゲーム業界でどう見られているか
ひとりでゲームを作る人は本当に大変なことで、尊敬している。自分自身のビジョンに沿ったゲームを作ることができる強さがあって、個人の表現ができる。『Downwell』のように個人が作ったゲームが盛り上がっていることはとても素晴らしい。
●スモールスタートが可能そうなアイデアとそうでないアイデアを区別するコツをしりたい。
難しい問題だ。”スコープ”で考えると、新しいことをどの程度やりたいと思ってるかが判断の目安になるだろう。他の人がやったことないことをゲーム中で5つやりたいと言うのであれば、予算を小さくし管理しようとしても難しいだろう。
●人事がいない中でどのようにスタッフ間の関係性を構築するのか
これも難しい。私自身の経験を通じて、人事担当者を本当に尊敬するようになった。会社を立ち上げる段階で決めるということで、オーナーと社員の関係性に関してはハンドブックのようなもので最初から決めておくのが重要だと思う。
●プレゼンテーションはロジックに訴えるか、感情に訴える方がいいのか
皆さんのゲームの強み次第だ。自分のピッチの内容を信じていなければ説得できないから気持ちが大切だ。大抵のパブリッシャーはどこがユニークなのかということを聞きたい。それからできるのかということも聞きたいものだ。
●ゲームディベロッパーはコネがない場合に、どのようにプロのマーケッター連絡を取ればいいのか
これもいい質問だ。私たちはプロのマーケッターを雇わなかったので答えを持っていないが、ディベロッパー同士のコネクションを作らなくてはいけない。同じようなことをやっているディベロッパーに対していろいろ質問することだ。私の経験上、他のインディーディベロッパーと話をすると必ず面白い会話になって情報共有を進んでしてくれるし、他のディベロッパーにどのようにマーケティングしているかと聞けば何らかの回答が得られるだろう。
今回の内容は、インディーゲーム界隈でよく聞く内容の箇所もあり、共感した方も多いのではないでしょうか。マット氏とそのメンバーほどのキャリアがあってもこういったことが起こるということは、インディーゲーム開発においてこういった出来事は決して珍しくないことを物語っているように思います。また、最後の質疑応答でマット氏が回答した「私の経験上、他のインディーディベロッパーと話をすると必ず面白い会話になって情報共有を進んでしてくれるし、他のディベロッパーにどのようにマーケティングしているかと聞けば何らかの回答が得られるだろう」はその通りだと感じました。日本のインディーゲーム開発でもミートアップが開催されることが最近は増えていますので、そういった機会を活用することは有意義ではないかと思います。