Steamでゲーム本編リリース前に“プロローグ”を展開するのは、本編のセールスにどこまで効果があるのか?

ここ最近のSteamのストアページを眺めていたとき、タイトルの後に“プロローグ(prologue)”と名付けられたものが目立つのに気づかないでしょうか? これはゲーム本編がリリースされる前に、ゲームの序盤や簡単な内容を紹介する意味で展開されたものです。

プロローグは、いわゆるデモ(体験版)とは違う売り出し方を行うことによって、ゲームの認知を高める手法として台頭してきました。プロローグという名称のとおり、まずゲーム本編がリリースされる前から本編に参加しているように感じられる点が、体験版との違いと言えるでしょう。

プロローグ手法のは体験版と同様に、ゲーム本編がリリースされる前に、主なゲームプレイをユーザーに知ってもらうことで、本編を購入させる導線にすることを目的としています。

しかしこのプロローグ手法は、果たしてどれくらいの効果があるのでしょうか? この手法が台頭してからしばらく経ち、英語圏のゲームメディアでは手法について分析を行った記事が出ています。

プロローグによって、本当にゲーム本編へのセールスに繋げられるのか?

IGFの議長を務め、GDCのインディーゲームサミットの発起人であるサイモン・カーレス氏が、自身のブログにてプロローグ手法の現実について言及しています

まずプロローグ手法のトレンドは、昨年2020年の4月から5月に活発に行われたといいます。Steamの「話題の新作」に載っている8作品のうち、4作品がプロローグ版だったのです。

それ以降、プロローグ手法はSteamにてトレンドとなり、今では数多くのタイトルがプロローグ版を先行して公開し、ユーザーへアプローチしようとしているのです。

しかし、実際にはプロローグ手法は「ゲーム本編のセールスに繋げる」という目的を達成できているのでしょうか?

サイモン氏はプロローグ手法のケースとして、『Fly Punch Boom』のプロローグ版とその後の本編について言及。本作はカジュアルな対戦格闘ゲームであり、プロローグ版は445件ものレビューを集め、「非常に好評」と高い評価を獲得しています。ところが高評価にもかかわらず、ゲーム本編に集まったレビューは、なんと62件しかありませんでした。

Steamの実売数はレビュー数に50を掛けた数字がおおよその数だと言われています。サイモン氏もそれに乗っ取り、「『Fly Punch Boom』本編は「おそらくは2、3000本は売り上げている」と推測。この結果をもってプロローグ手法が成功しているかどうかについて悩ましいと考えました。

プロローグとゲーム本編のレビュー数を比べるデータ

そもそもプロローグ版やデモ版の公開が、果たしてセールスを助けているのかについて、データをもとに考察を進めていきます。サイモン氏はプロローグ手法を行ったタイトルを収集し、プロローグ版とゲーム本編でレビューにどれだけ差があるかをスプレッドシートにまとめています

サイモン氏は収集したデータから、プロローグ手法についていくつかの分析を残しています。

まずゲーム本編をリリースしたあとにプロローグ版をリリースするケースは、「セールスを上げるには限界がある戦術のように思える」と分析。いくつかのタイトルを例に、プロローグ版が売り上げに少し関わるものの、大きなセールスをもたらす効果はなかったと説明しています。

続いてプロローグ版の内容に気を付けているタイトルは、プロローグ版とゲーム本編のレビュー比率が高いことを指摘しています。やはりプロローグに実装している内容が、本編とも関係している結果となっているようです。

またカジュアルなタイプのゲームで、ゲーム中での物語的な進行もあまりないようなゲームの場合、プロローグ版は多くのプレイヤーを集めることができるものの、ゲーム本編を購入する可能性が低いといいます。サイモン氏はこれを「カジュアルな面白さ」の問題だと語り、先述の『Fly Punch Boom』に見られた問題だといいます。

最後にプロローグ版の内容が多すぎるケースについて言及。ゲームプレイでアンロック可能なコンテンツが4、6時間分も入っているケースは少し盛りすぎていますし、プロローグ版のレビューを多く集めたとしても本編とのレビューの比率はあまり良くないとのことです。

プロローグ手法とは、現段階でどう使うべきなのか?

サイモン氏はここまでの分析によって、プロローグ版の効果については「卵が先か、鶏が先かというようなものだ」とまとめており、この手法を使うか使わないかの違いがどうなのかの判断は見送っています。

結論を出せる点として、「プロローグ版をたくさんダウンロードされたとしても、少なくともゲーム実況などと比較して、良いセールスに繋がるウィッシュリストの追加になるとは思わないということ」だといいます。

セールスの戦術として、Steamのストア機能やゲーム実況者にピックアップされる可能性のふたつがあります。そこに焦点を絞った方法として、短くプレイ可能なプロローグ版を出すことが、現段階でセールスに繋げられる最善の策ではないか……とサイモン氏は提案します。

最後にプロローグ手法の一例として、「なんらかのひねりをいれること」についても言及しています。

現在開発中のカジュアルなPvPタイトル『Rubber Bandits』。以前、デモ版をリリースしていても注目されていませんでした。ところがクリスマスに合わせたテーマでプロローグ版をリリースし、見事にゲーム実況者がピックアップして注目を集めることに成功します。これが大きくウィッシュリストへの追加に繋げたそうです。

とはいえカジュアルな見た目で、しかもゲームの物語的な進行とも違いそうなタイプのゲームでもあり、先述のサイモン氏による指摘を考えるとどれだけゲーム本編を購入するところまで持っていけるのか……という不安も少々抱えているようにも映ります。

現在のSteamを見る限り、日本のクリエイターによるゲームでプロローグ版の提示はほぼ見かけません。ですが、いまSteamで起きているプロローグ手法については、今後のビデオゲームを展開していく上でとても参考になるでしょう。

igjd

IndieGamesJp.dev Moderator

おすすめ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です