『Olija』ロングインタビュー。ゲーム業界未経験の開発者が、固定給を貰いながらインディーとして2Dドットアクションをリリースし、アワードを獲得した経緯
――少し話は変わりますが、海外の賞の受賞された話やパブリッシャーの話もお聞きできればと思います。
村上さん:僕たちはDevolverという、これまで接点のない海外のパブリッシャーと契約しました。「どうやって契約したの?」と思われると思いますが、シンプルに正面から連絡しただけなんです。知り合いに紹介はしてもらいましたが、メールでさらっとした紹介してもらった適度です。
それ以外にも『Olija』は、パブリッシャー何社かに送っていたんですけど、タイミングだったりとか、向こうが希望している作風に合ってないという理由でなかなか上手くいきませんでした。まぁ無名の会社なので当然ですね。逆に言うと、いろいろ送ってみたら、どっかに引っかかる可能性はあるという気がします。僕らもDevolverから返信が来た時はびっくりしましたね。「え、マジで?」って(笑)
――私もメディアで記事を扱って気づきましたけど、プレスリリースもやっぱりいろんなところに打たないと、プレスリリースが掲載されるかどうかはいろいろな状況やタイミングによって変わると思います。それに似ていますね。
村上さん:そうだと思うんです。がんばって1回出すとか1社だけ送って一喜一憂するとかじゃなくて、パブリッシャー探しもゲーム開発のプロセスの1つと意識して何度も挑戦すべきだと思いますね。
――1回やってみてダメだったから、「俺たちのゲームはダメなんだ」って思わず、もうちょっといろんなところにアタックするのも大事ですよね。 それはプレスリリースもパブリッシャーとの交渉も同じだと思いますね。
村上さん:同じところに送ってもいいと僕はおもうんですよね。たまたまそのタイミングでは無理かもしれないけど、もっと作ってからまた見せるとかでも良いと思うし、もうやめてって言われたらやめますけど。しつこくない程度に。
――ここまで開発してきたゲームなんだから、あきらめずにいろいろチャレンジした方がいいですよね。となると、海外パブリッシャーにも結構出されたんですか?
村上さん:トマに聞いたんですよ。「興味あるパブリッシャーってある?」って。Raw Fury(スウェーデンのパブリッシャー)や、フランスのDotEmuっていう会社などが出てきて「じゃあ全部攻めるか」って(笑)。Raw Furyからの返信はこれから数年予定が埋まっているので、発売時期が少し先のプロト段階の不完全なゲームが欲しいというものでした。いろんな事情があるんだなーって感じました。
――不完全…?
村上さん:『Olija』はその段階で、すでにゲームとして仕上がっていて、残りは微調整みたいな感じだったんですけど、Raw Furyとしては1年以上かけて一緒に開発していきたいので、プロトタイプ段階のタイトルが欲しいという考えだったのだと思います。
反対にDevolerはあっさりと話が進みましたね。YouTubeのトレイラーを送ったんですけど「いいね!」って連絡が来て、「ちょっとビルドくれ」って言われて送りました。彼らの中で特別な承認プロセスがあるらしいんですけど、その段階もわりとあっという間に終わって「じゃ契約の話をしよう」と連絡がきました。最初に連絡してから、契約までとても早くて、次の週ぐらいに連絡がきました。あっという間でしたね。
――早!結構驚きだったんじゃないですか?
村上さん:正直信じてなかったです(笑)
トマさん:二人とも信じてなかったです(笑)
――無理もないですね(笑)
村上さん:担当者が後から、「上と話したら、ちょっと難しくなって…」みたいなのもあるじゃないですか。だから喜び過ぎずに待とうって感じでした。
トマさん:びっくりしたんですよね、みんな。
――パブリッシャーによってスタイルも違うものなんですね。すいません。話題は尽きませんが、トマさんの『Olija』開発の経験を通じて、同じように個人で活動しているゲームのクリエイターに伝えたいことはありますか?
トマさん:ちゃんとゲームのドキュメントを作った方がいいと思います。絵などのデザインもテキストを書いて考えた方がいいとおもいます。それとゲームのボリュームを決めるのがすごく大事です。ほかの人にゲームを見せて遊んでもらうのもすごく大事。プレイテストをしてもらうのがすごく大事です。
村上さん:終わらせたくない気持ちはわかるけど、最後まで作りきってリリースすることがとっても大事ですね。
トマさん:諦めないのもすごく大事ですよね。僕は諦める事がすごく嫌いなので、全然開発したくない時もありましたけど、最後までするしかなかったです。
『Olija』はすごく大変だったんですけど、しっかりとディスカッションしてくれる人がいた事で1人で作りきれたと思います。そういう人を見つけることも重要です。自分のゲームに対してどういう気持ちで作っているかとか、最終的に作りたいものを理解してくれる人を見つけることが大事です。
それがないと普通にテストプレイしていると、みんな自由にもっとこうした方が面白いんじゃないとか、ここ分かりにくいとか言うけど、そういうのを全部聞くと自分たちが作りたいものから離れていくじゃないですか。だから自分が作りたいものをちゃんと理解し話を聞いてくれる相手を持つのは大事ですね。
――ああ、これは大事ですね。そういう理解者を見つけるのは個人開発者には本当に大事だと思います。
トマさん:もう1つは他の人に完成を約束するのは大事かなって思います。僕の場合、スケルトンクルースタジオとの約束もあるし、Devolverとの約束もあった。 ゲーム開発の経験を積んでいても約束をしなかったら全然ゲームを完成することはできないと思います。
――締め切りが大事なことに似ていますね。ところで、『Olija』は Valencia Indie Summit’21で2つの賞(Best Console Indie Game – Best Design)を受賞されましたね。
Valencia Indie Award 2021 to Best Console Game goes to : Olija, from @SkeletonCrewEN & @devolverdigital https://t.co/gFhV5v6cOE
— Valencia Indie Summit (@VlcIndieSummit) March 6, 2021
村上さん:基本何でも応募してます。賞が取れたらラッキーじゃないですか?
――知ってもらうの大事ですよね。
村上さん:トマがインディーゲームクリエイターとして参加するまで、僕たちはインディーゲームをパブリッシュしたことなかったので、何でも挑戦してみようという気持ちでいます。その結果がどうだったかで、次の事を考えるようにしてますね。今はコロナで機会が減っていますが、ゲームイベントなどがあれば出展するし、アワードがあれば挑戦したいと思ってます。いいゲームが沢山ある中で、じっと待ってても見つけてもらえる確率はすごい少ないと思います。挑戦するという努力は経験がなくてもできるかなと思います。
――今日はありがとうございました。二人三脚で開発されたのがよくわかりました。次の作品も期待しています!
スケルトンクルースタジオのメンバー。写真中央グレーのパーカーが村上氏。こちらから見て写真中段左がトマ・オルソン氏
2020年にリリースされた本作ですが、そのずっと前からトマさんの開発は行われていたでしょうし、トマさんと村上さんが出会った頃はまだインディーゲームも日本では知られていなかった頃でしょう。
フランスから来日し、様々な仕事をしながらずっとゲームを作り続けていたトマさんの情熱は、インディーゲームディベロッパーであれば共感を覚え、また拍手を送りたくなることと思います。
また、そんな時期にインディーゲームに取り組もうと考えた村上氏の決断も素晴らしいと思います。こういったゲーム開発もある。ということを知ってもらえることで何かの参考になればと思います。