【CEDEC 2023】開発に14カ月、ブラッシュアップに15カ月。「『メグとばけもの』のつくりかた – 心を揺さぶるゲームの技術」講演レポート

コンセプトに合うゲームシステムとは

ゲームデザインとシナリオ開発が同時に進行する際、「バケモノ」と「少女」は外せないポイントだとDAIGO氏は設定しました。バケモノは強く無敵で、少女を守る要素が必須になると企画当初から決まっていたようです。

バケモノが子供を泣かさないように焦っているコンセプトを見て、子供が泣いたらどうなるんだ、ゲームオーバーになると何が起こるのかを検討していったとき、せっかくだから壮大な感じにしようと考え「少女が泣くと、世界が終わる」というキャッチーなフレーズが誕生。その後はコンセプトがしっかりしていたこともあって、開発は自然と進んだそうです。

バトルシステムについては、一時的にタワーディフェンスなどのアイデアもあったものの、『UNDERTALE』などの成功事例もあって、バトルはフロントビューにするというイメージが明確にあったとのことでした。

また、DAIGO氏は隠し味としてゲームならでの体験を提供したいと考え、モンスターの設定である「HP99999」を何か使えないか考えたそうです。『FFV』のガラフエクスデス戦がめちゃくちゃ好きで印象に残っていたDAIGO氏は、HPゼロ=死というルールの中で死なないガラフに感情を動かされ、ゲームならではの体験だと強く感じたことから、本作に取り込んだそうです。加えて、敵の攻撃を桁違いなダメージにすることでこの敵が強いということを数字で表現したり、敵と自分の強弱関係が数字で計れるようになっていると語りました。

こういった実装の実現には、「ゲームデザイン」と「シナリオ」の制作が同一人物だからこそやりやすいとDAIGO氏は述べていました。ゲーム開発は大規模化すると分業化が進んでいくため、こういったストーリー体験を作ることが難しくなると感じたことがあるようです。しかし、最近は大規模開発のタイトルでもこういう表現がされるようになってきてもあり、面白いと感じているそうです。

開発準備編

コンセプトができると、インディゲームの場合は身軽さもまって、すぐに作り始めてしまいがちだとDAIGO氏は言います。これは経験のある方もいるかもしれません。DAIGO氏も同じ失敗をした経験があるそうで、今回は一度落ち着いて紙に書き出すなど、準備期間を設けることにしたそうです。

スコープの決定

開発の規模感について、DAIGO氏は開発期間を1年、開発人数が2~3人で完成できる規模感を考えたそうです。ただ、その中でバトルシステム導入することはチャレンジングなことです。バトルシステムは成長要素とセットになることが多く、そのために成長を実感できるショップシステムやスキルツリーの導入、宝箱の配置に加えて、バトル自体のデザイン、雑魚戦など、工数がすぐに肥大化してしまいます。

また、自分たちはコンセプトとなるストーリーを語りたいだけなのに、目指すところと違うゲームを作らなくてはいけないのかとなってしまうため、とてもバランスが難しくなります。そうして、本作では成長要素をほぼ入れない決定を下しています。

プロットは、最初RYOTA氏が初期の企画まとめと簡単な起承転結のアイデア、バトルシステムのアイデアを出してもらい、DAIGO氏が本作では編集者的な機能役割を果たし、壁打ち相手になって洗練させていきました。Odencatやゲームならではの演出をどうするかを議論する中で言い争いになることもあったそうですが、他のプロジェクトをやっている第三者を交えて一石を投じてもらう、といった工夫をしたそうです。この第三者の選定についてはシナリオに知見や経験がある人物が重要で、議論に合わない人を入れると破綻してしまう可能性があるそうです。

プロット作りに関して今回やってよかったと思うことのひとつが、がキーアートに合わせてゲームを作ったことだとDAIGO氏はいいます。『クロノトリガー』誕生秘話では鳥山明の素晴らしいキーアートに合わせてゲームが作られたというエピソードや、かつてDAIGO氏が働いていたモバイルゲーム業界では、「アップルストア向けのスクリーンショットを先に決めてからゲームを作る」という形もあったそうで、見た目から入るのは悪くないんじゃないか、と考えたそうです。

キーアートはTOMAS氏が手掛けており、本作のイメージを具体化してチームに共有することや、アートから湧き出るインスピレーションを感じ取ることに役立ったようです。

本作は子供と遊ぶシーンがプロット上で重要だったため、おもちゃで遊ぶシーンとして、トランプ遊び、お馬さんごっこのアートなども作成したとのことです。なお、「焚き火でマシュマロを焼くシーン」はプロットを見ると全く必要のないシーンですが、これは単にDAIGO氏がこれはじぶんがやりたかったから導入した、とのことでした。
前述の『クロノトリガー』の焚火のシーンや。『ドラゴンクエスト』シリーズにも焚き火のシーンに影響を受けたことや、DAIGO氏個人の経験として”最終バトル前に焚火を皆が囲むシーンの後、すごく重要なことが起こる”と感じていること、”アメリカに住んでいた時のキャンプでマシュマロを焼く共通体験”が影響しているとのことです。

こういったキービジュアルについてDAIGO氏は、理屈やひねり出すものではなく、自然と浮かんできたものを素材にするの方がよく、苦しんでやるべきではなく楽しんでやるべきだと考えているそうです。

HATA

5歳の頃、実家喫茶店のテーブル筐体に触れたのを皮切りにゲームライフが始まる。2000年代に個人でノベルゲーム開発をスタートし、異業種からゲーム業界に。インディーゲーム開発をしながらゲームメディアで記事執筆なども行う。

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