【CEDEC+KYUSHU 2023】「コンセプトを絶対神とする狂信的ゲーム制作のすすめ- 『違う冬のぼくら』制作事例をとおして」講演レポート

企画書を見てみよう

ここで、ところにょり氏は自身の作品『違う冬のぼくら』の企画書を使って自身の説を解説します。

まず、『違う冬のぼくら』とタイトルの書かれた表紙には、世界の認識が違う二人の少年のゲームであり、二人プレイ専用で協力のパズルアドベンチャーゲームであることが明示されています。また、表紙のデザインで、どういうアートワークで開発をしていくのかもわかるようになっています。

企画概要の最初の行では「世界の認識が違う二人」と題が書かれ、それぞれに見えてる世界が違うことや、片方は動物の世界が見えてもう片方は機械の世界が見えていること、さらに横スクロールパズルで二人協力プレイであることや、アドベンチャー要素としてストーリーを体験していくことが明記されコンセプトがしっかり相手に伝わるようになっています。

そして、お互いが見えている世界について、片方が世界をAとして認識しているならば、そのプレイヤーはAとして振る舞うという『違う冬のぼくら』ルールも示されています。ところにょり氏は片方のプレイヤーにとって当たり前のことがもう片方のプレイヤーにとっては全く当たり前じゃないということ、つまり「ギャップ」を企画の段階で膨らませてゲーム開発を行ったとのことです。『違う冬のぼくら』の例でも、ゲームは企画書の時点でほぼ完成していたわけです。

コンセプトは全ての構成要素に宿る

ところにょり氏は続いて、自身がどのようにコンセプトを作り、そして膨らませているかについて解説を行います。ところにょり氏は、コンセプトは全ての構成要素に宿るとしており、ナラティブや世界観にはもちろんのこと、アートワークや背景、キャラクターデザインからゲームのシステム、レベルデザイン、成長曲線、UIまで隅々に及んでいるといいます。

このコンセプトについて、ところにょり氏は視覚でとらえやすいように地図として表現する方法を紹介しました。この地図の見方については、地図の下がゲームプレイ要素で、左上がナラティブ要素、右上がグラフィック要素となっており、コンセプトの島はこれら3つの要素にまたがっていることを示しています。また、地図の外側に行くほどユーザープレイの部分に近く、グラフィックの部分であれば、どういうグラフィックにするかといったコンセプトは地図の中心に近くなります。たとえば「80年代っぽいアニメーションにしたい」などの具体的なアイデアは外側配置するとのことでした。

現実の地図には陸地・海・山がありますが、コンセプト地図においては、陸地の広さはそのコンセプトがどれだけゲームの構成要素にまたがってるかを表しており、高さはどれだけ興味深くなっているかを表しています。このため、コンセプト同士の繋がりを広さと高さで表しているとのことです(塔と山には特に違いはなく高さを表しているそうです)。

ところにょり氏は『違う冬のぼくら』をこの地図に当てはめると、一番中心に「見える世界が違う」「二人プレイ専用」のコンセプトが中央にあり、ゲームプレイに「パズル」「2D横スクロール」、グラフィックには「動物の世界」「ロボットの世界」が配置され他のコンセプトとつながっています。ストーリーでは、映画「スタンドバイミー」や漫画「火の鳥」の影響を受けた形で地図ができたと体験を語りました。

この地図において、ところにょり氏は広いコンセプトほど多くの構成要素を決めることができるといいます。『違う冬のぼくら』では、まず「二人でそれぞれ見えてる世界が違う中でどう協力していくか」というコンセプトが、二人の物語であることを決めています。二人プレイ用のゲームは二人の物語を作らざるを得なくなること、それぞれの世界で見えてるものが違うので二つのデザインが必要となり、サウンドも二つ必要になる…など、コンセプトから要素が導き出されます。ゲームプレイにおいても、二人プレイであれば二人で力を合わせないと進めないよう仕組みが必要になるとのことで、「二人でそれぞれ見えてる世界が違う中でどう協力していくか」がいかに広範囲に影響を及ぼし、本作の方向性を決めているかについて解説を行いました。

中心となるコンセプトを作った段階でコンセプト地図上の広さが決まり、基本的には広ければ広いほどよく、またコンセプト同士を孤立させてはいけないと述べます。孤立してしまうと、ゲームの1要素としてはすごく面白かったとしても、ゲーム全体のコンセプトなどと繋がりがなくなってしまいます。面白い瞬間はあるものの、そこまでのゲームになってしまうとのことでした。

また、地図の空白を意識することも重要だといいます。ゲームプレイやナラティブの要素が空白となっていることに企画段階で気付くことができ、意図的に空白を作るのか意図せずできてしまってるのかをきちんと見据える必要があります。

HATA

5歳の頃、実家喫茶店のテーブル筐体に触れたのを皮切りにゲームライフが始まる。2000年代に個人でノベルゲーム開発をスタートし、異業種からゲーム業界に。インディーゲーム開発をしながらゲームメディアで記事執筆なども行う。

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