『Olija』ロングインタビュー。ゲーム業界未経験の開発者が、固定給を貰いながらインディーとして2Dドットアクションをリリースし、アワードを獲得した経緯

――ひとりで自宅で作っている時だと、例えば気分転換にちょっと外へ散歩に出よう。とかその場所を離れることもできるけど、会社だとそうはいかないじゃないですか?あのいきなり外へ出たりしたら、やっぱりいけないじゃないですか。  

トマさん:いや、そんな会社じゃないから。  

村上さん:全然大丈夫です。  

――えぇ!?  

トマさん:『Olija』の時はすごく散歩したんですよ。 だって、アイディアが全然出てこないと、パソコンの前で待つ意味がないじゃないですか。だから1時間ぐらいの散歩とかすごくしました。  

――な、なるほど。質問としては家と会社での開発の違いなどを聞きたかったんですけど、家でも会社でも違いはなかったんですか?  

トマさん:ちょっとあると思います。音楽制作みたいな一人で集中したいとき、やっぱり家の方がいいですよね。それでプログラミングとかをする時は会社に行った方が簡単ですよね。まわりは人がいるし、いつでも聞くことができるし。   

村上さん:トマは割と自分で作業を管理して働き方を決めてますね。音楽作るからしばらく籠りますみたいな感じで働いていますね。   

トマさん:それは僕にとって大事なところですね、家で仕事が出来てから人生変わったんですよね。  

――会社の理解というか、普通の会社だといきなり散歩とか行くと普通はちょっと…ってなっちゃうんですけど、スケルトンクルースタジオ自体も柔軟な考え方があるわけなんですね。  

 村上さん:そうですね。割と全員がそういうメンタリティーでやってます。クリエイターなんで椅子に座って仕事が完成するものではないので、会社として良い物が作れるなら自己管理というか、皆さん自由に自分で時間調整していますね。ただ、プロなんでちゃんと約束した仕事は終わらせるっていうのだけはみんなで約束して、あとはそんなにルールで縛ったりはしてないですね。  

トマさん:村上さんは、基本はアーティストの人なので、そういう大事なところをすごく理解してもらえますね。僕は普通の会社に移るイメージが全然ないですね。もう戻れないかもしれないですよ(笑)。

――もう戻れないですね(笑)そこは結構知りたいところで、今後他の会社がトマさんとスケルトンクルースタジオみたいな関係でゲーム開発をするにはどうしたらいいのだろうか。という疑問が生じまして、実際にやってみてどうでしたか 

トマさん:やっぱり会社のルール、その一般的なルールはちょっと変えないといけないのかなと思ったところがあります。  

村上さん:会社のルールがあるかないかよりも、そのクリエーターのことをちゃんと理解してその人が作るものを応援するっていうことが重要だと思います。あとは信頼して待つのみかなと。 

例えば1か月後に何かを出しなさいと言う約束をして、できてない事を責めたりしてると良いものが出来てこない気がします。当然、締め切りは大事なのでそこはジレンマなのですが。トマが作るものが明確に決まるまでは、スケルトンクルースタジオのみんなで試遊会をしつつ、お酒を飲んだりしてリラックスしながらテストプレイしてあれこれ言うのは積極的にやるようにしましたね。  

トマさん:信頼ベースでやるけど、たまに成果を見せるのがいいと思いますね。   

――それは、アルファ版になる前というか、プロトタイプ的なところでみたいなとこですか?  

村上さん:そういうわけでもなく、普通に日にちを決めて「ここでみんなにちょっと時間作ってもらうから、何でもいいから見せるモノを持ってきてね」みたいな決め方でした。それが大事なのは、トマだけみんなと違う働き方なので、ほかの人に応援してもらわないとダメだなと思って。 みんなが『Olija』は自分たちの会社の作品で、ちゃんと関わっているということを感じて欲しかったので、報告会やテストプレイ会などの機会は大事にしました。   

――『Olija』をみんなが自分の事と感じるようにする努力はすごく大事だったでしょうね。この配慮も大切なんですね。ところで、『Olija』がリリースされた後スケルトンクルースタジオの中でほかのスタッフから「やってみたい!」という声は出てきましたか?  

トマさん:出てきました。僕が作りきったので、他のメンバーでも挑戦できるんじゃないかって声が出てきて。 それはよかったですね。 

村上さん:みんながそういう気持ちであってほしいですよね。受託開発の重要性もお金以外のところであると思いますが、やっぱりいつかは自分のゲームを作りたいという気持ちはみんな持っていて欲しいですし、夢と情熱を持ってモノ作りをして欲しいと思っています。 そのための環境を作っていきたいと思っています。  

トマさん:村上さんがいつも使ってるイメージの「Farm」みたいなのですよね。 

村上さん:うそう。僕は農業してるようなイメージで会社の経営をしてまして。結局、僕が出来る事って、土地を耕して環境を整え、種を植えて、しっかりと育つように手入れするくらいなんです。そうして育った植物や果実などを売って商売しているようなイメージを持っています。環境の整備だったり、しっかりと育つように手をかけたりしかできないので、あとはスタッフ個々の力なんですよね。 

――スケルトンクルースタジオという畑に実ったのが、『Olija』であり、次回は違うスタッフの違う作品かもしれないということですね。  

村上さん:そうですね。ただ、トマとほかのメンバーとの違いで言うと、完全に全部ひとりで作り切れる人ってなかなかいないので、数人の開発ラインを作るとなるとうちの会社の規模ではなかなか厳しいですね。

なので、自社タイトルを作るためのステップとして、まずはアイディアを持ってきてピッチをしてもらって、自分の空き時間で企画書や動くものを作ってもらっています。それを、スタッフ全体で見て、面白いアイディアであれば、最初は週1日ゲームを作れる日が与えられます。次のプレゼンで評価がよければ、週2日に増え、どんどん開発時間を増やして行って最終フルタイムで作れるチャンスがあります。その傍らで、僕は必死でお金を集める動きをしなければいけません。

――開発スタジオの中で自社タイトルを作る難しさですよね。経営とクリエイティブのバランスと言うか。 

村上さん:他のメンバーは、トマと違ってプログラマーとして採用した人が多いので、個人のゲームを作っている場合でも「受託案件が大変だから、ちょっと手伝って」と言うのが出てくるんですよ。近くで他のメンバーが苦しんでいる時に、それを無視して自分が作りたいもの作るっていうのは難しいじゃないですか。

実は、トマにもサウンドを作ってもらうことはありますが、彼はインディーゲームを作るために採用したので、他のメンバーの様にヘルプに来てって言われる状況はないです。  

――インディゲームデベロッパーは既存の職種と違う職種でもあるんですね。なかなか新しい気付きですね。確かに一人で全てできる人はあまりいないのかもしれないですね。  

トマさん:インキュベーターとちょっと近いところがあるんですよ。 

村上さん:中小規模の会社だと、受託のお金で自社のタイトルを作ろうって盛り上がっても、普通の仕事が忙しくなって、うやむやになって開発が止まっちゃうケースが多々ある気がします。 

――これは永遠の課題みたいなところがありますね。トマさんみたいな作り方をするか、どこかでお金と時間を貯めておいてゲームを作るとか、何か方法を確立しないと難しいかもしれないです。こういうお話が世に出ることで、自分たちもやってみようっていう人が増えるのは、いいのかなと思うところがありますね。

HATA

5歳の頃、実家喫茶店のテーブル筐体に触れたのを皮切りにゲームライフが始まる。2000年代に個人でノベルゲーム開発をスタートし、異業種からゲーム業界に。インディーゲーム開発をしながらゲームメディアで記事執筆なども行う。

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