実地開催とオンラインのハイブリットとなった東京ゲームショウ2021は、インディーゲームに恩恵をもたらせたのか?【TGS 2021総括】

カプリコン・1』という映画を知っていますか? これは人類初の火星上陸をメディアのなかで “実現したように見せるSFサスペンス映画です。

人類初の有人火星探査を目指すのですが、実際に火星に行くには生命維持システムに問題があるのが発覚。しかし計画は中止できず、火星上陸の体裁を保つために事実の捏造に手を出してしまうのです。宇宙船を無人で発進させ、クルーが上陸した模様は砂漠にあるセットで行い、カメラにその模様を収めることで火星上陸を演出するという内容です。

この映画がアポロ11号計画の月面着陸をモデルにしていることは明らかでしょう。あまりによく出来た映像のように見えた着陸の模様から「本当はアポロは月に行っていないのではないか。あれはハリウッドで撮られたものではないか」という陰謀論が当時ささやかれました。

アポロ計画はベトナム戦争の最中に行われました。戦線に立つ兵士は、月面着陸に熱狂するアメリカの国民たちを見ながら「ベトナムの泥沼を這いずり回って暮らす、数十万の我々全員よりも、月面にいるたった2人の男のことをずっと心配していたのだ」と距離を感じていたといいます。

いずれ訪れたであろう、ゲームショウの実地開催とオンラインとのハイブリット化

筆者がライターとして東京ゲームショウ2021(以下、TGS2021)の現場へ足を運んだ瞬間、そんな『カプリコン・1』の内容を思い出してしまいました。

幕張メッセのわずか10分の1のスペースで運営されるゲームショウの光景は、コロナ以前を思い出すと凄絶さを感じたのは否定できません。そして、「オフラインの現場も賑わっている」という状況にするために、今回はYoutuberやVtuberといったインフルエンサーによる、会場の動画や写真による拡散が主力となっている構図なのです。

たしかに様々なインフルエンサーによる動画だけを見れば、TGS 2021の現場はある程度「実体を持った」イベントに見えるでしょう。昨年は新型コロナウィルスの蔓延により、感染対策のため急遽オンライン開催に切り替えたゆえに、うまく行かない部分も見えたものでした。その経験からか、今年はオンラインとオフラインを併用することでイベントの盛り上げにチャレンジしているように映りました。

すでに各メディアでイベントの総括も出てきています。たとえばGame Watchの中村聖司氏は「過去に経験したことのない特異なショウだと感じた」と述懐していました。

中村氏は今回のインフルエンサー向けに踏み切った施策を見ながら「今回もっとも貧乏くじを引いたのはメディア、もっと言えばゲーム専門メディアだったかもしれない」とも語っています。現場のみで言えば、一般客と企業で現場の熱を生んでいた過去とあまりに違っていたことは、筆者も同意しています。

ただ筆者が思うのは、コロナ以前からすでに世界的にゲームショウという形式自体が、すでにオンライン寄りのインフルエンサーによる拡散を目した状況になっていたのではないか? コロナとはきっかけに過ぎなかったのではないか。ということです。

たとえば2018年の西田宗千近氏によるE3レポートを振り返ってみましょう。すでに今から3年前の時点で「業界関係者のためのイベントというよりも、ゲームファン、それもゲームを介したコミュニティを重視したイベントになっている印象が強い」と評されており、とりわけEpic Gamesの『フォートナイト』ブースの活況に触れ、「新しい情報はないのだ。だがそれでも、ゲームファンは好きなゲームの『お祭り』に参加すべく、E3にやってくる」と語っています。

特に興味深いのは「E3のゲーム展示が新しい情報をゲーマーに伝えることから、ゲーマーを楽しませ、その様子が広く伝わるように工夫する形になっていることに気付く」と指摘していることでしょう。

「帽子やお面を配り、こちらもお祭りのような仕立てになっている。これも、記念撮影をしてもらうためのしくみだ。そうやって撮影された写真がSNSを介して拡散していけば、結果的にゲームのプロモーションになる」と、この時点で来場者の活況がオンラインで広まっていく可能性について言及。「情報についても、メーカー自身が発信することが可能な今、メディアへの依存度は減った。また、YouTuberやブロガー、ゲーム実況者などの『ファン』の力も強くなっている」という記述も予見的でした。

実際、E3に長らく関わってきたジェフ・キーリー氏の発言を振り返ってもオンラインへ比重を強める発言を残しています。「デジタルイベントへの移行は、パンデミックによって加速されたものの、業界はいずれにせよその方向に進み始めていると考えている」とキーリー氏は考えており、現在「Summer Game Fest」というオンラインイベントを実践。いまのビデオゲームを取り巻くイベントのあり方に適応した形を目指していました。

当然コロナ禍もありますが、ここ数年の状況を翻るに、TGS 2021が実地開催とオンラインのハイブリット化となったのは、ある意味では世界的なゲームイベントを取り巻く状況とは無関係ではないのではないか、とも考えています。

TGSがハイブリット化へシフトする中で、割を食ったかに見えるインディーゲーム

問題は、TGS全体がオンラインにて実地開催のような熱量を実現する試みをする一方で、その恩恵を受けられなかったのは、インディーゲーム側です。

TGSによるインディーゲームへの対応は、オンラインに転換した昨年から決して良いものではありません。今年はどうだったかを振り返ると「昨年よりましだが、クリエイターにイベントの効果があったかというと難しい」と言わざるを得ないでしょう。

今回、現地にてインディーゲームが展示されたのはパブリッシャー契約した作品に限られています。もっとも大きいブースはハピネットによるもので、同社のパートナー企業であるPLAYISMやPikiiと契約したタイトルのみ展示されていました。

ハピネットブースではインフルエンサー向けの施策として「試遊するとガチャガチャが一回できる」というサービスが用意。『Amoung Us』のフィギュアやゲームのDLキーなどが景品となっていました。

しかしこれが個々のタイトルをインフルエンスする効果があったかはわかりません。筆者はゴールデンボンバーのメンバーで、ゲーム番組を持つことでも有名な歌広場淳氏がガチャガチャを行う現場を目撃しましたが、インフルエンサーが映える絵になってもゲームタイトル自体がクローズアップされる結果になっていないのではないか、とも思いました。

大手のブースから離れると、インフルエンサーとして映える展示とは遠ざかります。今回インディータイトルを取り扱うパブリッシャーには、WhisperGamesなど中国のパブリッシャーが出展しましたが、会場の端の方に静かに位置していました。

こちらは開発に14年をかけたフリーゲームの世界展開版『ASTLIBRA Revision』が展示されるなど、見所あるタイトルが見受けられました。しかし今回のTGS 2021が目指すインフルエンサーの拡散という意味ではあまり効果的ではなかったのではないでしょうか。

こうした状況のなか、1つのタイトルとしては最大の展示となったのは『RPGタイム!~ライトの伝説~ 』でした。ゲームクリエイターを目指す少年を題材としているのもあり、ブースでは小学校の教室を再現する力の入ったものです。試遊はもちろん、インフルエンサーによる動画や写真が映える内容だったと言えるでしょう。本作がアニプレックスとパブリッシング契約したことによって、今回のような展示が可能になったのだと思われます。

ではパブリッシャー契約していない、個人で出展しているケースはどうか? これは昨年から引き続き、非常に厳しい状況だったと思います。

今年のインディー参加の応募条件は、弊誌でも紹介した通り「「センス・オブ・ワンダー・ナイト」(以下、SOWN)に選考される条件を満たしたタイトルのみの出展」との条件に変更。条件に該当しないタイトルは有償出展となりました。ところが有償の場合は20万円という小さくない費用となり、インディーにとってはかなりの出費になってしまうのです。

では実際に出展した作品は、TGS 2021をオフラインでもオンラインでも来場したゲーマーたちにアプローチできたのでしょうか? これはほとんどできていなかったと感じられました。

今回、幕張メッセの現場には、インディー専門のスペースはありません。「SOWNに応募された一覧」という名目でインディー作品が一同に展示される事もありませんでした。インディーで出展した作品は、YoutubeのTGS公式チャンネルによるアップロードとTwitterによるオンラインでの告知のみです。

オンラインでの告知にどの程度の効果があったのでしょうか。上の画像をご覧ください。TGS公式チャンネルにアップされたインディータイトルの一覧です。見ての通り漠然としており、再生数の伸びも厳しい感触です。

さらに各タイトルのYoutube動画やTwitterでの告知には、「各タイトルの公式サイト」や「ストアへのURL」という重要な誘導もなく、試聴した人へ次のアクションを作る導線はありません。さらに海外作品は作品説明を原語のまま詳細欄に記載しています。すぐにゲームの情報を読み取ることができないのです。

ではオンライン配信ではどうでしょうか。TGS VRでは実質インディーの出展は見かけられませんでしたし、TGSオンライン配信でもインディー出展の放送は、SOWNのファイナリストのほか、IGN JAPANの放送で一部のインディータイトル(やはりパブリッシャー契約を果たしたタイトルです)がクローズアップされるまでに留まっています。

すなわちオンラインでもオフラインでも、公式では来場者にインディータイトルを伝える姿勢がとても小さいということです。SOWNですらも、ファイナリストに残った作品が来場者に興味を持たせる導線は少なく、イベントによってどれだけ各ゲームに新規のプレイヤーが生まれたかも考えさせられました。

オフラインのTGSではインディー専門のブースから来場者と交流できたり、あるいは会場を訪れたパブリッシャーに見てもらうことで、ビジネスに繋げるチャンスのような恩恵がありました。

しかし今回の状況を見る限り、個人で開発中のタイトルやパブリッシャーの付いていないタイトルだとTGSに参加する恩恵がかなり萎縮されてしまっているように映りました。

TGS全体が今後、オンラインとのハイブリットによって、これまでのイベントの熱量を生み出していく方向に進みつつあるのは非常に良いと思います。しかしながら、そこへシフトする中でインディーゲーム開発者は割りを食ってしまったかのようでした。

インディーゲームイベントは、実地とのハイブリットの可能性はあるのか

一方、世界的なゲームイベントのオンライン化(または実地開催とのハイブリット化)という観点から、今後のインディーゲームイベントについてはどう考えられるでしょうか。

現在、インディーゲームはIndie Live Expoやasobu INDIE SHOWCASEなどオンライン配信によるイベント開催を行っていますが、やはり実地開催が持つ恩恵の大きさにはまだ近づけていないのではないでしょうか。

今年のBitSummitは実地開催とオンラインのハイブリットで行われていました。実地開催はBtoB用に絞られており、一般客の参加は無しとするかたちです。これが今後コロナの状況が落ち着くとともに、一般客のほかにインフルエンサーなどの参加はどれくらい有効になるか、も考えていました。

本稿ではここまでインフルエンサーの効果を限定的に評していますが、かといってインディーゲームとインフルエンサーの組み合わせが悪いというわけではなく、適切にアシストすることによって、大きな波及効果があります。インディーゲームのプロモーションにおいて、もっと有効な付き合いができるのではないか、とも思います。

たとえば先日、協力型のインディーゲーム『Pico Park』が100万本を突破するニュースが報じられています。報道からはTwitchの人気ストリーマーから、中国のbilibili動画、さらに動画アプリTik tokなどによるインフルエンスが多大な効果をもたらしたことが語られており、今後のプロモーションの可能性を見出せるものです。

筆者の考えですが、国内のインディーゲームはインフルエンサーに広めてもらえるポテンシャルのあるタイトルはいくつか見当たります。なので今後のインディーゲームイベントも実地開催とオンラインのハイブリットする方向であるならば、TGSで見受けられたインフルエンサーの活用は有効ではないでしょうか。

TGSが今後のゲームショウの形となるであろう、ハイブリット型のイベントへシフトする中、残念ながら今年もインディーゲームは例年のような恩恵には預かれませんでした。ですが今後のインディーゲームイベントにおいては、さらなるプロモーションの可能性があるのではないか、とも考えさせられました。来年のさらなる施策の展開に期待しています。

igjd

IndieGamesJp.dev Moderator

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