ゲーム発見にも「需要」と「供給」がある。
[本記事は、GameDiscoverCoニュースレターの日本語翻訳です。GameDiscoverCoの許諾を得て翻訳・掲載しています。]
2021年、Steamでリリースされたゲームの総数は11,773本で、平均して1日30本です。果たしてゲームの総数は多すぎなのでしょうか。この記事では、ゲームの「需要」と「供給」の現状を分析し、ゲーム業界の近年のトレンドを紹介します。
ゲームの「需要」と「供給」の議論
最近、リリースされるゲームの数についての議論を見かけます。Jeff Vogel氏の記事「There Are Too Many Video Games」では、ゲームの供給が溢れており、もはや持続可能な業界ではないと主張しています。確かに、利益を上げることが目的なら、競争相手が多すぎるのかもしれません。
その一方、VGInsightsの「Make More Video Games」では、多くのゲームは利益ではなく創作のために作られており、自分の目的に沿ってもっと作ればいいと主張しています。ゲームの制作目的を考慮すると、2021年にSteamでリリースされたゲームのうち、2割が目標に達成していない可能性があります。
そして、インディーゲームに関する仕事の経験を15年以上持つSimon Carless氏は、開発側もパブリッシャー側も、担当のゲームの成功率を考える際に「需要」と「供給」を十分に考慮していないと結論付けました。詳しく説明するために、前提であるゲームマーケットの現状について先に紹介します。
「リセット」なしのPC・ゲーム機マーケット
Steamは2003にサービスを開始しましたが、現在のゲーム総数は60,000本以上です。びっくりする数字ですね。各年のリリース数を見ると、「今年は前年より少しだけ多い」と考えるかもしれませんが、その累計で見ると総合した数は著しいものがあります。SteamDBの毎年のリリースを足して、その総数の増加を可視化しました。
一番注目すべき点は、多くの既存のゲームは一夜限りのヒットではないということです。最も成功できているゲーム、例えば 『No Man’s Sky』や『Rust』などは、まだ定期的にアップデートされたり、継続して売れたりしています。そして、アップデートすら要らないゲームの人気もまた続いています。例えば、大ヒットアクションゲームの『Hades 』が2月に3,300件のレビューを獲得し、未だに約10万〜15万本をれているようです。Lucas Pope氏の2013年リリースの『Papers Please』は直近の30日で550件のレビューを獲得し、恐らく1.5万〜2.5万本ほど売れているようです。
昔であれば、ファミコンやゲームボーイなどの本体とその対応ゲームを買って、次の世代のゲーム機がリリースされたら、新しいゲームを買うといった循環がありました。言い換えると、持っているゲームがゲーム機に応じてリセットされるわけです。しかし、今はリセットなしのPC・ゲーム機マーケットになっています。Steamがあり、持っているゲームがそのまま何年も次のPCに引き継がれます。そして、XboxとPlayStationも前世代で買ったゲームを簡単にアクセスできるようにしています。
このリセットなしのマーケットにおいて、新しいゲームはどうなるでしょう。Valveを含め多くの人の意見は、Steamのプラットフォームが十分に成長しているため、新しいゲームは引き続き売れる可能性がある、としています。2020年のSteamブログの投稿によると、リリース後の最初の2週間で100万円以上の売上を出しているゲームが2011年から年々増えているそうです。Simon Carless氏が2020年も2021年も同じく増えていると考えています。
しかし、売上に対するゲーム制作の費用と投資収益率をデータ化するのは難しいです。ここ3年、収益できるSteamゲーム制作の「本気」の試み(供給)が増えており、着実なユーザー成長を徐々に追い越している印象です。もちろん、Switch、PlayStationおよびXboxにも同じことが言えます。
「需要」と「供給」の影響
現状のマーケット状況を説明しましたので、「需要」と「供給」がゲームの成功率への影響することついて説明します。リセットなしのマーケットでは、売れ行きが芳しくない理由は「ジャンル」や「質」の可能性もありますが、それより「需要」と「供給」に関連している確率が高いでしょう。その事例を以下にまとめました。
- Switchで2018年に100〜200,000本を売れたゲームは、今だったら、同じランキングでも10〜20,000しか売れないでしょうか?(供給 > 需要)
- 現在、VR開発者だったら、Meta Quest 2(旧Oculus Quest 2)の公式ストアが、なぜ絶好のチャンスとなるのでしょうか?(供給:350本 < 需要:1000万〜1200万ヘッドセットユーザー)
- インディーゲームのパブリッシャーは、なぜ2022年に多数のゲームが赤字で数件でしか回収できていないのでしょうか?2016年とは状況が違います。(需要供給曲線の形が変わり、大ヒットはありますが、収益の保証はありません。)
- なぜKena: Bridge Of Spiritsなど、数件の早期のPS5のゲームが大ヒットしたのでしょうか?しかもデビュー作で?(ゲームの質はもちろん高かったし、ユーザーがちょうどPS5のスペックを披露できるゲームを探していたからです。供給 < 需要)
また、顧客維持率が高い、サービスとしてのゲーム(GaaS)という概念の登場により、「供給」の競争が激しくなっています。しかし、ゲームマーケットを「需要」と「供給」の角度から見ると、興味深い視点があります。Xbox Game Passや他のサブスクリプションサービスが脅威より総合的に良い影響があるかもしれません。これらのサービスは、プラットフォームの資金で「需要」と「供給」の不一致で発見しにくいゲームをグループにしているからです。ただし、どれぐらい効果があるかはまだ不明です。
ゲーム業界の近年のトレンド
ゲーム業界の近年のトレンドに関して、Unity Gaming Report 2022(日本語版はこちら)からいくつかの点を抜粋しました。この報告書は750,000本のゲームを作っている230,000人の開発者からのデータに基づいています。
- ゲーム制作が増えた:コロナの始まりにおいて存在した制作不況はすでに終わりました。他の業界と同じようにゲーム業界が引き続き成長しています。2021年、Unityの開発者が2020年より31%増加し、Unityで開発されたゲームが2020年より93%増加しました。
- 1日あたりの利用者数(DAU)が増えた:DAUがコロナ前より増加し、コロナ禍では頂点に達してから減少しましたが、コロナ前より多くなっています。PC・ゲーム機のDAUは2019年より62%増加し、モバイルのDAUは74%増加しました。
もちろん、ゲーム業界の全体に当てはまらないかもしれませんが、Steamの1ヶ月あたりの利用者数(MAU)が2019年より40%増加した背景もあり、数字のギャップはさほど大きくないでしょう。
モバイルゲームの収益データについても見てみましょう。アプリ内課金の割合は、ジャンルのやりこみ度合いにより異なります。例えば、ハイパーカジュアルゲームの94%の収益源は広告ですが、RPG・アクション・アドベンチャーゲームの収益源は75%~80%がアプリ内課金です。(Unityで開発されたゲームの多数はモバイルであるため、詳細なデータはPC・ゲーム機の開発者にとって関連性は少ないかもしれません。)
最後に、これからのトレンドを下記にまとめました。
- ゲームの寿命が延びる
- マルチプラットフォーム化がより多く見られる
- この先 10 年にわたって、モバイルのマルチプレイヤーゲームがスタンダードになる
- インディーと中小開発者はユーザー関連のデータに投資
- 専門ツールと外部の知識の導入がますます増える
- メタバースとブロックチェーンなどは試されるものの、完全に受け入れられない
まとめ
「需要」と「供給」は複雑な要因ですが、作りたいゲームを諦めるほどの要因ではありません。十分な収益を確保できるゲームを作りたいなら、ゲーム業界のトレンドを参考にしながらマーケットに「供給」が足りていない部分を分析したり、ゲームプラットフォームの会社のアップデートに注目しながら開発したりしてみてはいかがでしょうか。
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