【CEDEC 2023】開発に14カ月、ブラッシュアップに15カ月。「『メグとばけもの』のつくりかた – 心を揺さぶるゲームの技術」講演レポート

仕上げ

「仕上げ」の段階はOdencatのゲーム作りで最も特徴的な箇所で、とにかくフィードバックを受けてどんどん改善していくスタイルになっているとDAIGO氏は言います。

ゲームのテストプレイを通じたフィードバックは、むやみに色々な人に遊んでもらうのではなく、目的をもって順番に行ったそうです。まずは、コアメンバーからのフィードバックを集めたといいます。これは最初の段階でランダムなプレイヤーからフィードバックを受けても同じ改善点の指摘ばかりになるためだといいます。クオリティの高い意見をくれるユーザーは貴重な存在で、そういったユーザーを無駄にしないために戦略的にフィードバックを受けていこうと考えていたそうです。加えて、本作のネタバレがかなり致命的であったことも背景にあるそうです。

次の段階ではコアメンバーから離れ、本作の開発を手伝ってくれた方々からのフィードバックを集めます。グラフィックを担当したTOMAS氏は日本語ができないことから、かなり序盤からローカライズメンバーのEVAN氏が参加しており、後日翻訳を行ったうえで意見をもらったそうです。また、音楽を担当した裏谷氏やエンジニアHAJIME氏からもいろいろな視点の意見を受け取ったそうです。

さらに万全を期すために、DAIGO氏の知人でゲームのレビューをしている人からも意見をもらったそうです。ただそうしたフィードバックには率直すぎる意見も多かったようで、そのままRYOTA氏に見せてしまい、気に病んでしまったこともあったそうです。フィードバックがたとえ正論であったとしても扱いには気をつけないといけないと感じたとのことでした。最終的にフィードバックはシートに起票したものだけでも840にも登り、バグ以外にシナリオ上の矛盾や様々な意見などが集まったため、ひとつひとつ対応していったとのことです。その結果、1年半を要したといいます。

具体的な改善例としては、少女がバケモノに懐くのはなぜか?という点には、少女が絵本のモンスターに親近感を持っていたことにする、などの改善をフィードバックをもとに実施していったといいます。このほかにも効果音の追加や修正や、各種移植などの業務も行っており、多忙な日々だったようです。

マーケティング編

マーケティングについてはまずベーシックなものとして、国内向けには、BitSummitやIndie Live Expoへの参加や、各メディアへのプレスリリース配信、Steamではウィッシュリストを増やす取り組みを行ったとのことです。

海外向けには、PR Houndという企業に協力を依頼した結果、Metacriticでの評価を得ることができたことが海外でのマーケティングに大きな影響を持ったとDAIGO氏は言います。日本のゲームメディアで点数をつけているところがIGN Japanのみであるため、国内メディアに向けた活動だけではMetacriticに掲載されません。そういった観点で、海外のパートナーは重要と言えるでしょう。

加えて、海外就労の経験があるDAIGO氏の英語力を生かしたインフルエンサー活用も実施されました。「supershigi」のTwichチャンネルで5.7万人のフォロワーを持つ鴫原ローラ氏に宣伝を依頼。DAIGO氏は配信番組で共演し、英語圏に向けて本作を紹介することができたとのことです。

鴫原ローラ氏はコンポーザーとして『Deltarune』、『World of Warcraft』、『To the Moon』などに関わっっていましたが、『クマのレストラン』を鴫原ローラ氏が遊んだことをきっかけにtwitterで交流が始まり、本作の主題歌も担当することになったとDAIGO氏は言います。

また鴫原ローラ氏自身も『Rakuen』というRPGを作っており、DAIGO氏はアメリカで本作を売りたい、鴫原ローラ氏は日本で『Rakuen』を売りたいと考えていたため、タイアップの形で協力体制を築いたとのことです。また『Rakuen』においてはDAIGO氏は自身が使っているEbitengineというオープンソースのエンジンを使ってもらうようにサポートし良好な関係を築いたと言います。その他、Steambundleで両作品のコラボも行い、こちらも効果があったとのことです。

この時ばかりは英語ができてよかった、とDAIGO氏は感じたとのことでした。

もう一人の重要人物、コンポーザーである裏谷さんとの出会いはCEDEC2019でした。『クマのレストラン』に関する講演「好きなゲームを作ることをあきらめない。スマホインディーの生存戦略。」の講演で、裏谷氏からDAIGO氏の過去作『償いの時計』のファンだと声を掛けてもらったのがきっかけだと言います。

裏谷氏は本作においてサントラの紹介動画を高いクオリティで作り、キャラクターが動くアニメーションまで作ったほどで驚いたとDAIGO氏はいいます。サウンドトラックには各曲の頭文字を続けて読むとメッセージになっているという仕掛けなどもあって好評を博したそうです。これは裏谷氏の情熱やクリエイティビティが発揮されてマーケティング的に繋がったのだと感じたそうです。

また、裏谷氏からゲームクリア後にサントラへの誘導を入れた方がいい、というアドバイスを受けたDAIGO氏はさっそくこれを導入したというエピソード明かし、ゲーム実況者が動画の上でポップアップを見て、「サントラ買うから、みんなも買ってね」といった言動につながったことが購買のきっかけになったのだろうと感じたとのことでした。

作品のブラッシュアップに開発フェース以上の時間をかけ、マーケティング施策もユニークな試みが見られた本作。少人数でできる物量とゲームのコア部分をしっかりと捉えた作りで、本公演では多くのファンに支持される名作ができあがったその過程を垣間見ることができました。

なお、本作ではゲーム開発環境としてGo言語製の「Ebitengine」が使用されており、『メグのばけもの』のプログラミングを担当したHAJIME氏が開発しています。9月22日には初のオフラインイベントも主催されているため、2DグラフィックでPCやスマートフォン向けのゲーム開発を行っている方は是非チェックしてみてはいかがでしょうか。

『メグとばけもの』 公式サイトはこちら

CEDEC 2023公式サイトはこちら

HATA

5歳の頃、実家喫茶店のテーブル筐体に触れたのを皮切りにゲームライフが始まる。2000年代に個人でノベルゲーム開発をスタートし、異業種からゲーム業界に。インディーゲーム開発をしながらゲームメディアで記事執筆なども行う。

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