歩いて気持ちの良い街を作るために努力した『黄昏ニ眠ル街』インタビュー。「ここに行きたい」をどう実現したのか。

nocras氏:そうですね。オブジェクトの配置に関してはすごく時間を掛けて、構成を練ったりして考えたりしています。最初のカットだと右に飛行船があって左奥に大きい橋があって、間には中くらいの橋があってっていう配置になっているんですけれども、これだとやっぱり奥の橋の上行きたいってなると思うんですよ。

――なりますね!

nocras氏:そうさせるために、モデルひとつひとつのクオリティが落ちたとしても配置にこだわって作ったというのが、このゲームのキモだと思ってます。

――確かに全部こだわって作ってたら完成しないですね。建物などの配置については、どういうふうに考えて作られているのでしょう

nocras氏:1人でやるっていうのは最初から決めていたので、落ちている石ころ一つ一つにノーマルマップがっつり作って、UV貼ってとかやってたら一生終わらないですよね。ですので、一個一個のオブジェクトのクオリティ関しては、あんまりこだわらないっていう方針に決めています。建物の配置についてはカメラを意識するんですが、ゲーム会社でレベルデザインをしていた時に、一番気を付けていたことは実際にコントローラーを握って歩いた時にどう思うかということでした。例えば、歩いていると路地裏の先には何があるんだろうって、現実世界でも行ったことない町とかにもそういうのがあると思うんですけど、冒険心くすぐるようなデザインをすることはこだわりというか、モットーにしているところなんです。

――旅の楽しみというか、家の近所でもちょっとした脇道に入ってみようみたいな気持ちですよね。

nocras氏:ただ歩いているだけなんですけど、次々にわくわくするポイントというか、魅力的に見えるポイントが出るような作りになってます。このゲームには大きい街が3つ出てくるんですけれど、それぞれのコンセプトが港町と、大きい橋と湖畔です。ただ、専用のアセットってなかなか作れないので、実は建物については屋根の形状を変えたりとかして差別化をしています。個人制作の辛いところなんですけど、ひと手間でいろんなバリエーションを出す作り方をしても、どうしてもさっきと同じ建物だなってなりがちなところを配置でカバーしていますね。

――配置に気を使っておられたわけですね。1から街を作る場合どういった風に作るのでしょう。最初に何から作っていくのか、あるいは街を作る流れなどはあるのでしょうか。

nocras氏:最初は浮島みたいなアイディアもあったり、ほかにもいっぱいあったんですけど、最終的に落ち着いたのが、港町と橋と湖畔なんです。最初っからそのコンセプトで作ろうと考えてはいませんでした。モックアップモデルを配置していくときに、構成というか「この配置のレベルデザインなら歩いててたのしいな」という発見がありました。このレベルデザインに合ったテーマは何だろう?と考えたら「これは運河があるから港町がいいんじゃないかな」とか「これは立体構造なレベルデザインだから橋をメインにテーマにしたらどうだろう」とか。結構メインテーマは後からつけたりしてました。自分の肌感覚みたいなとこですかね。大規模プロジェクトでマップを作る場合だったら、設定を詰めたりしてゲーム進行に合わせて「ここはボスが出てくるから広めのフィールドにする」とかそういうところから詰めていくと思うので、歩いた時に気持ち良いレベルデザインは後回しになると思うんです。このゲームはボスとか戦闘要素もないので、本当に歩いた時の気持ち良さを第一に持って来れたっていうのが1番大きい違いだなと思っています。

――バトル要素があるゲームだと逆算で作るわけですね。これまでの経験とは異なる開発だと時間がかかったりもしたのでしょうか。

nocras氏:ゲーム性も後付けとかしたので、いい感じに作れたけども思ったより狭いとか、このレベルデザインじゃ探索しづらいな、ということがあって、一回ほぼ完成まで作ったけど作り直し、みたいなことはありました。

――それはつらい。

nocras氏:そうなんですけど、やっぱりそこは配置とかマップの構造にこだわりたかったので、自分としてはどうしてもそこだけは妥協できなかった。何度も作り直して納得のいくようにはしてました。

――作ったマップを実際自分で何度も歩いてみるわけですか。

nocras氏:何度も歩いて「これじゃない」ってなったり。歩いてる目的地から目的地までの距離ってすごい大事だと思ってて、たどり着くまで「ここに行きたい」っていうプレーヤーの欲求は満たしつつも、横道にもプレーヤーを逸らせたい。かなり難しいところなんですけど、そこを満たせるかどうかが自分の判断基準になっていました。

――ああ、プレイヤーにゴール以外にもあっちにもこっちにも行きたいという気になってもらうわけですね。それを作って実際歩いて感触を確かめてみてやり直したりされたとお訊きましたが、そのを繰り返しの中で気づいたことはありますか

nocras氏:マップデザインですね。マップの中にランドマークって絶対いると思っていて、「あのでかい建物がこのマップの最終目的地だ」みたいなのがわかるのは大事ですね。このゲームに関してもそういう作りになっていますね。

HATA

5歳の頃、実家喫茶店のテーブル筐体に触れたのを皮切りにゲームライフが始まる。2000年代に個人でノベルゲーム開発をスタートし、異業種からゲーム業界に。インディーゲーム開発をしながらゲームメディアで記事執筆なども行う。

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