【IDC2021】『アンリアルライフ』の開発経験から得た、ユーザーレビューから読み解くゲームクオリティの高め方
インディーゲーム開発者向けのカンファレンス・Indie Developers Conference(以下、IDC)が8月21日に開催されました。
本カンファレンスはさまざまな観点から知見を共有する事が見どころのなか、「ユーザーレビュー」をいかに開発へと還元するかについてのセッションが行われました。
このセッションは『アンリアルライフ』を開発したhako 生活氏が、4年に及ぶ開発から学んだことを元にしています。長い期間をかけた開発によって、ようやくプレイヤーからのダイレクトな反応をもらえるユーザーレビューは、感情的に反応してしまいそうになるものでしょう。
そこで本セッションでは、感情に流されず冷静に反応を読み解き、ゲームの品質を上げるためのヒントをまとめています。
そもそもユーザーからゲームに求められる水準が高くなっている
hako 生活氏はそもそものインディーゲームの魅力として「なんでもあり」であることだといいます。
どんな製作期間で作ってもよく、どんな予算があってもいい。個人でも、集団でも作っていいし、何を表現してもいい……そんな自由があるからこそ、多くのクリエイターが取り組むものでしょう。
ではなぜゲームクオリティを上げる必要があるのでしょうか? そこには現在のインディーゲームを取り巻く状況が関係していました。
近年ではインディーゲームも、大きな企業の開発した商業ゲームと同じ棚に並ぶことは多いです。しかし、開発者にとってはそうしたゲームとインディーゲームの違いは分かっていも、ユーザーはそうではありません。同じ土壌にあるものとして見ているといいます。
hako 生活氏はこうした状況から「インディーゲームに求められる水準は高くなっている」と語ります。そうした前提がある以上、ユーザーがインディーゲームを観るときの厳しさがあるとのことです。
そのため「商業ゲームと並べるように、品質を意識してみるのも良い」というのがhako 生活氏の考えだといいます。品質を上げるためには「ゲームは人が触るもの。作るのは自分だが、遊ぶ人を意識する必要がある」と語りました。
他人であるプレイヤーから学べる視点
実際にプレイヤーを意識して開発するポイントとして、基本的に「他人と自分は同じ、かつ違う」ことをhako 生活氏は挙げました。
たとえば開発者自身が面倒に思うところは、プレイヤーも面倒に思うといいます。しかし。開発者自身が面倒に思わないところを、プレイヤーは面倒に思うかもしれないそうです。そのため「客観的な部分を見つけることが、品質を高めるコツ」だと言います。
わかりやすいところでは、インディーゲームの展示イベントや、他の人によるテストプレイでの感想を聞くことでしょう。これは客観的な評価をもらうのに役立ちますが、「直接的で母数が少ない」問題があります。
では母数の多い意見から、客観的な評価に繋がるヒントが欲しい場合、どうするのかというと「既存のゲームのユーザーレビューから学ぶ」ことだそうです。これは間接的なかたちですが母数が多いため、ユーザーレビューを読んで「自分のゲームだとしたらどうか?」と考える事が大切だと言います。
ユーザーレビューから学べるものとは?
さてユーザーレビューから、どのように開発に学べる点を見つけるのでしょうか?
特に商業メディアのように、編集部によるチェックを通過した、ある程度の客観性や情報の整理を行ったレビューとは違い、ユーザーレビューは感情的だったり、部分的だったりする文章が大半です。
hako 生活氏はそこで、あえて作品を悪く評価した「バッドレビュー」を読む意味について取り上げました。その理由としては、自分の作品で意図していない批判を避けることが目的だと言います。
「バッドレビューはつらいもので、嫌か気持ちにさせられるもの」とhako 生活氏は前置きしながらも、レビューから判断できるものを解体して観ていくことが大切だと指摘します。
ユーザーのバッドレビューは大まかに分けて三つに分けられるといいます。
1・作者への批判
2・他のストアユーザーへの警告
3・ストレスの発散
ゲームに存在する事実と、ユーザーの意見に喜びや怒りといった感情が掛け合わされたものがユーザーレビューの総体だと解説されました。
こうしたユーザーレビューを開発者がチェックする場合、まずはユーザーの感情はいったん置いておいて、大事なのはレビューを解体し、意見と事実を確認する事だと言います。
バッドレビューに含まれている、品質改善のヒント
そこで開発中タイトルのリリース前の対策として、よくあるバッドレビューにはどんな批判がもあるかが解説されました。
批判は大きく分けて、ソフトウェア品質やUI品質をはじめとする「ゲーム内」のことと、ユーザーがゲームに合っているかどうかというプロモの問題といった「ゲーム外」のふたつだそうです。実際にゲームをリリースする前に、こうしたユーザーレビューにありがちな批判を解体して読むことで、品質向上のポイントを見つけていける模様です。
まずゲーム内の問題を意見するレビューとして、シンプルにソフトウェア品質を観るときのバグの問題を取り上げました。これは特定ゲームタイトルのユーザーレビューでしばしば見かける「バグで進行不能」みたいな意見などは、先述した事実と意見を見とりやすいものでしょう。
続いて「実行品質」として、「ゲームが重いこと」、「ロードが長いといった」というよくあるユーザーレビューも取り上げます。こうした批判に対応するために、動作の最適化のほか、ユーザーが遊ぶプラットフォームに合わせたコンフィグの実装することが効果があるそうです。
「UI品質」の意見の確認では、ゲームは人が触るものなのでアクセシビテリティなどの意見に注目することが語られました。
たとえば「赤が見えづらい」とか「画面酔いする」というのもユーザーレビューに観られるものです。こうした批判に対し、コンフィグの実装や、プレイ前などに事前の注意をする対応のほか、多人数のテストプレイやパブリッシャーからUIの知見を共有してもらうことを取り上げました。
そして「ユーザービリティ」についても言及。これは「プレイアブルキャラが思ったように動かない」、「思った方向に動かない」といった批判について解説されました。こうした問題に対応するには、ボタン配置の見直しや、キャラコントロールの見直しなどが必要になるとのことです。
そして「恣意性」について解説。いささか抽象的な言い方ですが、これは開発者自身がゲーム開発において、かなり主観的な考えから起こる批判についてをとりあげています。
平たく言えば、開発者自身の「まあ、これでいいや」という姿勢を注意するものとのこと。それを端的に指摘するレビューとして「説明不足」、「なにをすればいいかわからない」、「理由がわからないまま死ぬ」といった、これまた開発者側がプレイヤーへの誘導を油断することでありがちな一文が挙がりました。こちらもチュートリアルの作りこみや 第三者によるテストプレイからレスポンスをもらうことで品質を上げられるとのことです。
また「冗長さ」においてもよくある批判があるでしょう。ADVやオープンワールド要素を持つタイトルで「不必要な往復が面倒」とか、「会話をスキップできない」問題について言及。こちらも第三者による見直しや、開発しているタイトルと同じジャンルを分析することで遊びやすいものを目指せると説明しました。
一方、hako 生活氏は『アンリアルライフ』でも同様の批判が来たところ、「歩くことがADVの目的というこだわり」があったため、直さなかったといいます。プレイアビリティ以上に貫きたいテーマがある場合はその限りではないことも語られました。
またストーリーがメインのゲームにありがちな批判として「伏線などの未回収・一貫性」も取り上げられます。「プレイヤーいままでやってきたことは何だったのか」、「作者の自己満足だ」といった批判に対し、まずはシナリオの見直しや、やはり第三者によるテストプレイから判断していくべきとのことです。
ストーリーのあるゲームでは、キャラクターなどの「倫理感」の問題も紹介。「主人公の言動が気になる」というユーザーレビューもありますし、現在は社会の倫理感も様変わりしている状況もあるため、場合によっては忠告される可能性も高いものです。
こちらもテストプレイヤーから意見をもらうほか、契約していたならパブリッシャーから意見をもらうことも大事とのこと。ただhako 生活氏は「表現の自由もあるので、開発者の兼ね合い」であり、最終的には作り手のこだわりを重視するとのことです。
最後に「ゲームバランスは大丈夫か?」について言及されました。これはボリュームへの批判として「思ったよりすぐ終わる」とか、ゲームプレイについて「同じような要素が続いて飽きる」批判についての対応です。
こちらは、ゲーム中にやり込み要素を導入することや、基本のゲームプレイを進めていくときのサイクルを見直すことが対策となるようです。ボリュームに関しては、プレイヤーへ事前にゲームの規模がたとえばどれくらいの時間でクリアできるものか説明しておくことも対策になるといいます。
ただ、hako 生活はボリュームがあればいいというわけではなく、大事なのはそのゲームを遊んだときの密度だと語りました。『アンリアルライフ』には「ゲームが短い」いう批判はなかったそうで、どこでゲームの長さじゃなくて密度だと気づいたそうです。
近年は『A Short Hike』のように、1,2時間でクリアできるオープンワールドなどが好評である事例にも触れ、単純なボリュームの多い少ないがゲームへの評価とは違うことを指摘していました。
ゲームバランスといえばやはり「難易度」への批判が最もよくあるものでしょう。これは「理不尽すぎる」とか「簡単すぎる」といった批判について対応するわかりやすいものですが、これは単純にバランス調整するというよりもプロモーション部分への注意が印象深いものでした。
開発タイトルの「ターゲット層の見直し」などや「さまざまな層向けのゲームデザインを検討すること」を上げていました。たとえば “壺おじ”の言い方で有名な『Getting Over It with Bennett Foddy』や、『Celeste』などは、当初から高難易度のゲームであることが押し出されているタイトルであり、そうした難しいゲームを好むプレイヤーに向けられたものだと解説されました。
さらにユーザーレビューでよくある批判である「作業化」についても言及。「ただのおつかいをさせられる」みたいな批判には、ゲーム全体の見直しや、問題を言語化していくことが重要だそうです。
こうしたゲーム内に関するユーザーレビューによる批判対応のまとめとして、簡単に言えば第三者にテストプレイしてもらうことことで問題点を確認できるとのこと。以上の問題は、さまざまなゲームのユーザーレビューでは頻出することもあり、開発者がテストプレイでチェックしてほしい部分としてピックアップすることもできるでしょう。
宣伝、ストア紹介……ゲーム外に関わるユーザーレビューについて
最後に、ゲームのプロモーション周りに関するゲーム外のことについてのユーザーレビューの解説がありました。「ユーザー損失の問題」では、「このゲームは僕には合いませんでした」というレビューみたいなミスマッチの問題を解説。
大なり小なり「合いませんでした」のレビューは出てくるものですが、hako 生活氏は「これがあまりに多かったら、ターゲットに合ったプロモーションができているかを考えなおすこと」に注意すべきだと説明しました。
この問題に続くかたちでゲームが表向き紹介している内容とゲームプレイにズレが生じる「説明不一致」の問題も紹介。Steamなどのストアに書いてある紹介が、実際の内容と違うことがユーザーレビューに批判として出てしまうため、ストアの紹介をしっかり考えておくことが重要だそうです。
興味深いのは「価格設定」についてです。先述したように、基本的にユーザーは商業ゲームもインディーゲームも同じものとして見ているため、おのずと高い水準を要求していることになります。
ゆえに市場や競合に合わせた価格設定になるのかと思いきや、hako 生活氏は「基本、強気でいいんじゃないか」と語りました。理由としては「この価格で買ってくれる人を大切にすること」と、ここは自分を通していった模様です。
また「プラットフォームによる損失」など、PCやコンソールなどマルチに展開するゆえの批判も紹介。「コンソール版ではなにかが付いてくるのに」といったこともあるようです。
「競合」の問題として「他作品のパクリ」という批判もつきものであり、次作と同系統のゲームへのリサーチや、ジャンルに詳しい人へ聞くことで差別化するヒントを見つけることも重要だと言います。
最後に「ヘイト」の問題についても紹介されました。「作者が嫌いだから☆1つ」こういったユーザーレビューも少なくありません。
SNSで自説を語るゲームクリエイターやその候補はたくさんいますが、発言をすべてのユーザーが好意的にみているとも限らないわけです。そうした発言が影響して、AmazonやAppleストアの平均レビューを下げられる可能性があるから、SNSなどで自身の発言を見直そうと提言しました。
レビューはすべてではない
hako 生活氏はここまでにユーザーレビューから品質改善に関わるヒントの見つけ方を語りましたが、最後に「レビューがすべてではない」ともまとめています。
レビューはあくまで意見であり、「最終的には自分のやりたいことを最優先していく」スタンスだと語りました。その言葉どおり、いくつかの点ではユーザーの反応に合わせた調整をするのではなく、自らの表現したい面を通したことがわかります。
質疑応答では、『アンリアルライフ』が影響を受けた作品を公開したことの、プロモーションとしての効果について質問が挙がりました。これは、ユーザーがゲームに求めるものへのミスマッチといった問題を回避できるといった効果があったそうです。
セッションを通じて感じられたのは、現行のインディーが(それで食っていくために収益をだす目的があるならば)企業の商業ゲーム同じく、品質の管理やプロモーションの問題が立ちふさがっていても、それでもなお開発者が自分の作りたいものを貫くポイントはどこにあるか、ということでもありました。
ユーザーを第一に考えた品質改善はもちろんながら、もしかしたらバッドレビューに繋がる可能性にあっても表現したい貫くべき部分に、現在のインディーゲーム開発のスリリングさがあるのかもしれません。