インディーはどのようにパブリッシャーにプレゼンをするべきか?マイクロソフトのインディー担当が体験をもとにコツを語る【CEDEC2021レポート】

CEDEC2021にて「グレーアート – インディーズのための事業開発の基礎」と題した講演が2021年8月25日に行われました。

講師は、マイクロソフトのインディーゲーム部門を担当しているマット・スミス氏(以下マット氏)で、過去に自身がインディーゲームディベロッパーであった経験を元に事業開発や資金調達について見解を述べています。

マット氏はCEDEC2020でも自身の経験を語るセッション「Standing on the Precipice: A Veteran Developer’s Experience Going Indie/絶壁に立つ:インディーゲームの開発におけるベテラン開発者の経験」と題した講演を行い、多くのインディゲームクリエイターが共感する内容でした。今回もマット氏の経験に裏打ちされた見解の数々がインディゲームクリエイターの役に立つことと思います。それでは、講演を見ていきましょう。


マット・スミス氏について

まずは、マット氏の経歴を見ていきましょう。

マット氏はPopCap Gamesなどでエンジニアやプロデューサーを歴任。その後PopCap GamesがEAに買収されたことに伴いEAにて勤務後に日本で独立しゲーム会社Friend&Foe社を設立しました。Friend&Foeで社ではVaneをリリースし、この開発経験をCEDEC202で語っています。現在はXboxで勤務されています。

資金調達先は3種類

マット氏は、今からピッチ(短くまとめられた資金調達のためのプレゼンテーション)や資金調達について語るが、その内容を使ってもマイクロソフトやXboxに採択されるなどの特別な効果があるわけではない。と前置きをしたうえで、資金調達は「選択の問題」であると述べました。

ゲームの開発資金は、自分たちで時間をかけて準備することもできるが、資金調達を行うこともできます。資金調達は将来の価値、つまりゲームが完成した時の売上や利益を先にもらうことで、ゲームを開発する時間を稼ぐことができるものだと語りました。

また、資金調達のためのピッチをすることで、ある種の筋肉を鍛えることができるとマット氏は言います。この筋肉とはサードパーティに自分やゲームを説明できるようになることで、より自分たちのゲームを理解することができることを指します。目的をもって明確に話すことで自分のゲームがどのようなものかを理解できるようになり、開発に還元することができるといいます。他にもマット氏はピッチをしたゲーム業界の人との関係づくりなどもゲーム作りとは直接関係ないが大切なことだと語りました。

続いてマット氏は資金調達にはいくつか種類があるが、3つの方法について解説を行いました。

1:サードパーティーとプロジェクトファイナンス

パブリッシャーから開発するゲームに対して売上の前払いを受ける方法。ほかの2つに比べて一般的といえる。開発中のタイトル限定なので会社全体には影響が少ない。

2:投資モデル

開発タイトルへの出資ではなく、会社に出資する方法。こちらはゲームの良さだけでなく、ディベロッパーが企業をどのように運営しているかなど会社全体を見て投資判断をする。投資が入るため、コーポレートガバナンスも重要になってくる。

3:プラットフォームからの資金提供

これは1のようにゲームに対して資金提供を行うが、プラットフォーム側はそのゲームをプラットフォームにいれることで会員数が増えることなどプラットフォームの活性化を目的とする。複数のプラットフォームと契約することも可能。

3つの資金調達について簡単な解説を行った後にマット氏は詳細な解説を行いました。

プロジェクトファイナンスについて

パブリッシャーから資金提供を受ける方法。これは前金のようなもので、パブリッシャーの資金でゲームを作る方法であるとマット氏は解説し、資金提供以外にもパブリッシャーからマーケティングやQAなどの開発以外の支援も受けることができるが、パブリッシャーと売り上げを共有することになるので、資金の回収条件や契約条件の確認は非常に大切である。と続けました。そして、マット氏はある仮のゲームを例に解説を行います。

とあるゲームXを開発するために、100万ドルの開発費をパブリッシャーから受け、50%のロイヤリティをパブリッシャーに支払い、残り50%を受けとるものとする。ただし、開発費100%を回収してから我々に利益が支払われる。という条件を設定し、マット氏の説明は続きます。
開発費100万ドルは5人の人間が標準的な給与で2年開発を行う。そのほかにパブリッシャーだけでなく、販売した時に30%のストアの取り分もある。ゲームXを20ドルで販売するとして、残りの70%を得られる条件であれば100万ドルを回収するために7万本の販売が必要で、そこを超えてからはじめてディベロッパーに資金が得られるということになります。

7万本は小さなヒットであり、平均的な販売本数ではないとマット氏は語ります。いわく、Steamの中間的な販売本数な本数はだいたい4千から5千くらいが多く7万本は野心的な目標なのだそうです。また、回収条件は案件によって変動するので、投資回収をゲームXのロイヤリティの中の50%から回収する(こういった条件もよくあるそうです)と、売上は14万本が必要となります。プロジェクトファイナンスは将来の利益とのトレードオフであり、成功した場合と失敗した場合を考え、慎重に条件を見なくてはいけないと語りました。

次に、マット氏は投資の場合について解説しました。投資家はゲーム会社が今後大きくなるかどうかを判断し、会社の成長を見込んで投資を行います。開発者側には弁護士なども参加し、会社自体をチェックされるようになります。

最近のニュースを見ていると、ゲーム業界のベテランが小さな開発スタジオを創業するケースがあり、投資のケースはこういった会社が受けることが増えているとマット氏は語ります。経歴や自身もあればこういった投資を求めることができますが、会社になるとスタッフの誰がどういったものを作り売り上げをあげているのか、(インディーディベロッパーでは取締役会を開くことはないかもしれないが)取締役会を実施しているのか、といった会社として機能しているかどうかを判断材料にされるそうです。
もし、あなたが会社を興して規模を大きくする野望がなく、投資家など外部の声を入れたくないのなら、この方法は避けるべきとのボベました。投資を受けると会社の運営に投資家の意見も聞く必要があるからです。

3つ目は、プラットフォームから資金提供を受ける場合についてです。マット氏は、プラットフォームは会社やゲームに対する投資を行うが、ゲームを作ることは直接的な目的ではないとし、ネットフリックスを例に挙げて説明しました。ネットフリックスは特定の映画や売り上げに興味があるわけではなく、ネットフリックスというプラットフォームの価値の最大化に興味があり判断材料となる。とし、ライセンシングや、サブスクリプションでライセンスフィーをディベロッパーに払う方法などがプラットフォームのビジネスモデルだと述べました。

そのため、資金提供する際もロイヤリティーやリクープ(前払い分の回収)という考え方はなく、一括で資金提供が行われることが多いとしました。その一方でマット氏は、プラットフォームの資金提供は排他性が見られ、独占契約などが必要になることもあり得るとしました。そのためプラットフォームは競合していると思われますが、実はそうではなく、プラットフォームの位置づけ(モバイルやコンソールなど)によって戦略が異なっています。場合によってはプラットフォームごとに契約することも可能であるとし、プロジェクトファイナンスや投資モデルとの違いを明らかにしました。そして、ゲームディベロッパーはどんな資金があるかを踏まえて契約していくことができると述べました。

ピッチの機会はどこに?

それでは、これらの資金を提供してくれる相手をどこで見つければよいのでしょうか?

これについてマット氏は、まずはネットワークづくりをすることだとして、GDCE3などのイベントで人と会うことだと述べました。今はコロナで直接会うのは難しい世の中ですが、こうした機会はオンラインイベントに移行しており、オンラインビジネスマッチも増えています。パブリッシャーは投資家たちは新しいゲームをさがしているので、こういったイベントに出たりSNSを通じて自分のタイトルをPRするなどの方法があるとしてネットワークづくりの方法を解説しました。

そして、マット氏は次の段階は自分のピッチをまとめ、自分のゲームについて投資家たちにプレゼンテーションする方法を考えることだと述べました。


マット氏は逆三角形の図を提示し、自身がピッチを考える順番を解説しました。最上部に位置する「strong vision」は自分のゲームに強いビジョンがありどこがユニークかを理解し、ほかのゲームとの差別化ができているか、さらにそれが自分の情熱の元になっていて、他人に熱意をもって伝えることができるかを示しています。これは考えて整理するのに時間を要するもので、自分たちがどのような方向を向いているのかを伝えることも重要であると述べています。

その下は「asset(demo)」です。ゲームはビジュアル面も重要なので、体験版やアセットもピッチを行う際には必要であることに触れ、ゲームエンジンによって動くものを早めにつくる敷居が下がったと語りました。続いて、投資家たちはピッチの際にゲームを20個前後見ることが多いので、ほかのゲームに見劣りしないように短時間で楽しさや特徴を伝えるように作ることが大切だと述べました。10分のチュートリアルがあるようなデモでは、投資家の関心をつかめないからです。

最後に、パブリッシャーへの説明に自分のゲームのドキュメントも必要になるだろうとマット氏は述べました。自分たちが何をしたいのか、具体的でゲームをどうやって完成させるのか、資金はいくらで時間はどのくらいかかるのか、ほかに何をサポートしてほしいのか(マーケティングやQAなど)の要求を正直に詳しく書く必要があり、パブリッシャーも投資家も、金額と時間が明確でないと交渉が進まないだろうと語りました。

ピッチ後のフォローアップについて

ピッチを終えた後、ディベロッパーは何をするべきかについてマット氏は、1か月に1回は投資家やパブリッシャーにフォローアップ(あとからメールなどで連絡をすること)をする必要があると述べました。フォローアップを行うことで彼らに新しい情報を提供し、忘れられないようにすることの大切だと解説しました。また、ひとつのゲームに複数の支援も受けられる可能性があり、複数の資金提供先から資金を得て開発することも考えられるとのことです。

契約に進めた場合の注意点

無事に契約に進んだ場合についてマット氏は次のように語りました。まず契約書の内容を確認するために、弁護士を見つけることです。契約は重要で、予期しないことが起こることを避けるために弁護士の確認をすることが大切であるとし、自分たちが法律やビジネスの用語を理解することも重要だと述べました。

契約書内のロイヤリティーについては、ゲームの完成度や投資額、コミュニティサポートを得られているかなどで割合が左右されます。たとえば、ディベロッパーが純収入の70%を得ることができれば、平均からは高めです。30%という低い割合の場合もありますが、これはタイトルがAAAやAAなどの規模であり、投資額が巨額になるケースではありえるものだそうです。

交渉する際に交渉すべきこと

契約の中で交渉をすべきことはいくつかありますが、ロイヤリティーについて交渉することは特に大切です。なぜならリクープに成功して追加のレベニューシェアをゲームから得ることができれば、ディベロッパーは生き残る可能性が高くなるからです。

また、契約条件に違反が発生したときのトラブルにも対応する必要があります。例えば、開発進捗が設定したマイルストーンを過ぎてしまったり、クオリティが想像より低かったりした場合、どのように和解するのか条件を見ておく必要があります。資金提供者たちは時にディベロッパーのことを考慮してくれないこともあり、注意が必要です。

開発しながら次の開発について考える

資金提供を受け、開発が始まったときに念頭に置いておくことは、現在の開発をしながらも「次の開発の資金」についてだとマット氏は語ります。昨年の講演でもこの点をマット氏は自身の経験を踏まえて強調しており、スタジオに置いて複数のタイトルを作り続けることはとても重要だといいます。ゲームクリエイターはどうしても一発ヒット作を狙いがちですが、できるだけ多くのチャンスをつくるために継続性が大切だとマット氏は語りました。

ピッチのスキルはインディーディベロッパーだけのものではない

今日の内容はインディーディベロッパーだけの内容ではありません。これらのスキルは、会社で上司に自分のゲームを説明するときや、新ソフトの導入などの場合にも有用だとマット氏は語ります。明確に情熱をもって相手に伝えるノウハウは、パブリッシャーに伝えることと変わらないとも述べました。

最後に、ゲームについて効果的なピッチを用意することは、パブリッシャーだけでなく、ユーザーやプレスにも効果的に伝えることにつながるだろうとマット氏は語りました。時間をかけて自分たちのゲームを明確に伝えるというプロセスを使うことで、よりこのゲームの強みは何かを議論し、よりよい開発もできるだろう、とピッチの重要性を説明し、この講演を終えました。


今回の公演では、資金調達の内容が詳細に語られ、またパブリッシャーやプラットフォームなど資金提供を行う側の意図も説明されており、それぞれの対策についても語られています。

また、日本においては資金提供を視野に入れたパブリッシャーや投資家はあまりないため、インディーゲーム開発者、特に個人開発の場合はピッチの機会はまだ多くありません。現状多いのは、展示会でメディアやプレイヤーに説明するくらいではないかと思います。もちろん、それも自分のゲームをプレゼンテーションすることには違いありませんので、マット氏の教えから多くを反映できます。

今後、日本においてもピッチを行う機会が増えていくと思われます。パブリッシャーやプラットフォームの担当者に自分のゲームの魅力を伝えるためには、マット氏が講演で語った通りしっかりとした準備が必要になります。そのプロセスは自分のゲームへ良い影響をもたらすことでしょう。

■CEDEC公式サイトはこちら 

※上記セッションに終了後に実施する「Ask the Speaker」に関しては、規約に従い本記事では取材をしておりません。

HATA

5歳の頃、実家喫茶店のテーブル筐体に触れたのを皮切りにゲームライフが始まる。2000年代に個人でノベルゲーム開発をスタートし、異業種からゲーム業界に。インディーゲーム開発をしながらゲームメディアで記事執筆なども行う。

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