「自社インディーゲーム “TriniyS” リリースまでの軌跡」受託業務もこなしつつ、自社作品の開発体制を築くまで【CEDEC+KYUSHU 2021】
プロトタイピング完了後
それでは、プロトタイプが完了し本格的に開発を進める段階について見ていきましょう。ここで中村氏はゲームデザインが決まってからアートを決めたことを述べました。
『TrinityS』は王道ファンタジー世界を舞台としており、開発エンジンはUE4です。そこでまずは、UE4で作りやすいアートを模索したとのことです。UE4の特性としてフォトリアルや写実的なものを得意としており、セルシェーダや個性的なノンフォトリアルなアートは技術検証の時間が追加でかかるため避けました。また、購入可能なアセットで流用可能なものがあるとさらに望ましいです。全て自作にすると時間とコストがかかるので、流用するところは流用するべきだと中村氏は語ります。
アートはそのゲームの個性を表すひとつの面ですが、全て自作することはインディーゲームでは難しく、時に販売されているアセットを購入する必要もあるでしょう。それらにどのように折り合いをつけるべきか。中村氏は次のように述べています。
アートで個性付けを行うことは少しリスクが高いと思っています。個性付け自体を否定するものではありませんがどういうことかと言うと、アートでの個性付けはどうしてもコストが高いものになります。その場合たくさんのアートの個性付けはリスクが高いので極力少ない数での個性付けしていくことが重要です。そしてできるかぎり全体的にアセット品質を上げていくのが重要で、一部だけアセット品質が高くても全体的なアセット品質が低ければ非常にアンバランスになものになってしまいます。個性付けを行うのも、ある程度取捨選択した上で行うべきかなと思っております。そして、購入アセットでも品質が高いものがあるので自分たちのゲームになじむものは使ってOKかなと思っております。しかしながら全てのアセットを購入アセットにするわけにはいきませんので、どこからどこまでを購入アセットにするのかを考えていく必要があります。
『TrinityS』では以下のように決めたとのことです。
・メインキャラ:自作必須!ここは個性をつけるところなので頑張って作りましょう。
・アニメーション:自作は多め。アニメーションはゲームの気持ちよさと直結する点でアクションゲームでは重要。アクションゲームでは自作は避けられないのではないか?アセットのリターゲットだけでは難しい。
・エフェクト:半数は自作したい。アニメーションと同様に爆発やヒットエフェクトは爽快さにつながるのでがんばりたい。ただ、すべてを自作しなくてもアセットの中でゲームにマッチするものがあればそれも活用していきたい。改造することで使える者になる場合も。
・2Dアート、UI:自作するしかない。アセットに頼るという選択肢はまずない。ユーザーの快適さにつながるため、外注してでもなんとか自作したい。『TrinityS』ではアイコンやUIは社内で作ったが、デザインやUI設計は非常に悩んで開発した。ある意味ラスボス級の難しさだった。コストはかかるが試行錯誤していく場所。
・SE/BGM:SEはアセットが多く少し加工するだけでも種類が作れる。BGMは完全オリジナルにした。知り合いのゲーム会社に全楽曲を作成してもらった。
・CV:中村氏が専門学校の講師を勤めていることから、専門学校の学生に依頼。オーディションも行い、ある程度の品質を担保して学校のレコーディングスタジオでレコーディングをおこなった。
このように多種多様な方法で素材を集めるのはまさにインディーゲームらしいと言えると思います。また、大切なことは個性付けできる部分を見極めてから発注をしていった点でしょう。どこを個性付けするかという判断は作っているゲームによって異なるのでこの考え方は参考になるのではないでしょうか。
また、中村氏は「ミニマムなゲームは初見の印象が8割以上」といい、コストはかかるものの初見のアートについては力を入れていく必要があると言います。最終的にはリリーススケジュールを延期してもアートのブラッシュアップを行ったとのことです。講演ではプロトタイプの動画と現在の動画が流れましたが、その違いは一目瞭然でした。
ここから兵藤氏に交代し、本作のIndie-us Games社内の開発体制について解説が行われました。受託開発と並行した開発体制について見ていきましょう
2019年ごろの開発人数は4人で、受託業務と並行して開発したために4人がバラバラの時間に開発を行っていたと兵藤氏は当時を振り返ります。そのため意思疎通が取りづらいという課題が発生しました。
対策として、開発日と定例会議を設けたと兵藤氏は述べ、開発日にコミュニケーションが取れるようになったことや、開発日前日の定例会議で各自の作業内容が共有されたことで意思疎通を取ることに成功。『TrinityS』を前に進めていくという社内の雰囲気作りにも効果があったと当時を振り返りました。
2020年にはゲーム全体の仕様も決定し、Steamで販売することも決定。キャラクターモデルの作成も始まりました。コンセプトアートなども制作がはじまったことで開発メンバーは8人になりました。そうなると定例会議の報告だけで1時間にも及んでしまう新たな問題が発生。そのため、兵藤氏はエンジニアとデザイナーにリーダーを決め、週報形式に改め会議時間の短縮に成功したと語りました。また、マルチオンライン機能を導入するにあたりSteam:Coreプラグインを利用したことで実装に役立ったとのことです。
2021年に入ると、社内アンケートを通じて意見を吸い上げたところ、アート面の強化がやBGMの収録などの作りこみを行いゲームのクオリティ向上を続けています。参加メンバーは11人になりました。
続いて兵藤氏は社内のコミュニケーションツールの解説に移りました。
・タスク管理:JIRA 作業予定、作業中、完了、保留と分けてカードを作成。作業者と報告者を各タスクに設定してレビューから完了するようにした。また、メイン実装とデバッグでボードを分けるなどの工夫も行った。
・ドキュメント作成:Confluence JIRAとリンクができるメリットがあり、履歴機能を活用し古い仕様を同じ場所から確認できる点が優れている。
・スケジュール管理:Excel 当初はJIRAのロードマップを使っていたが、流動的な期日や人員変化に対応できるためエクセルに変更。機能や作業者などのスケジュール管理ができる点が良かった。URLを発行してDiscordから見られるようにした。
・コミュニケーション:Discord プログラムとアートでチャンネルを作成。JIRAと連携することでタスクの期限やメンションが共有できる。
・バージョン管理SVN:ロックしているときは連絡する
・パッケージ/DDCの自動化:Jenkins 毎日深夜に自動でパッケージが作成しSVNのコミットまで行う。エラーが出たらDiscordに連携が行われる。
これらを利用し情報を一か所にまとめたことやオンラインでのコミュニケーションを推進したことでリモートワークにも対応できたと兵藤氏は述べました。これらのツールは無料で利用できるものもあります。導入を検討してみてはいかがでしょうか。
本講演からは、実際にいくつものゲームに携わったメンバーが、どうすれば自分たちの作りたいものを本当に作ることができるか?を考え抜いた実感がありました。特に、販売アセットと自作の割合や、自分が作ったゲームの何を強みにするのかといった取捨選択のプロセスは、多くのインディーゲームクリエイターの役に立つ内容だと思いました。