『コーヒートーク』の開発者が経験を語る:持続可能なインディーゲーム開発者になる方法

[本記事は、Kris Antoni氏のブログ記事の日本語翻訳です。Kris Antoni氏の許諾を得て翻訳・掲載しています。]

2020年にSteamでリリースされたゲームの数は約1万でした。それほど競争が激しい、埋もれやすいインディーゲーム界隈では、開発にかけたお金を回収できないゲームの話は珍しくありません。また、ウィッシュリスト登録者数が多くても、利益が必ずしも良いというわけではありません。例えば、冷戦末期FPS『INDUSTRIA』はリリース時に8万件のウィッシュリスト登録がありましたが、利益は次のゲーム開発投資には足らないと開発者のDavid Jungnickel氏が公開しました。

果たして「持続可能」なインディーゲーム開発はあるのか、今回の記事では『コーヒートーク』を開発したToge Productionsの設立者Kris Antoni氏自身の経験から7点のポイントを紹介します。

Toge Productionsはインドネシアからのゲーム開発兼パブリッシングのインディーズスタジオで、『Infectonator』や『When The Past Was Around』などゲームを40本以上リリースしました。また、東南アジアの様々なスタジオとパートナーしたことがあります。現在、Toge Productionsのメンバーは25人以上いますが、2009年設立当時はKris氏とその友達しかいませんでした。そのとき、2人はともにお金のない新卒で(Kris氏は3万円以下の貯金しかなかった)ゲーム業界の経験も全くありませんでした。インドネシアでは、ゲーム開発は珍しい業界で、携わっている人は少なかったです。

お金のない、未経験者の2人はどのように持続可能なインディーゲーム会社を作ったのでしょうか。

ポイント1:小さいことから始める

2人は最初、短いFlashゲームを作っていました。初めて作ったゲームは物理パズルゲームです。まずは試しにということで、1〜2週間以内で作ろうという制限を付けました。結局、失敗作になりましたが、開発期間は2週間しかかからなかったため、負担は重くなかったです。Flash作品のポータルサイトでは、意外なことに5点中の3.65点の評価を得ました。

このように、利益になるゲームを出したり、仕事をやめたりすることを考える前に、まずは小さいゲームプロジェクトを3〜4つを試してみると良いかもしれません。人生を賭ける前に、ゲーム開発やパブリッシングについてのプロセスの大変さがより明確になるでしょう。

Toge Productionsの作品
当初の仕事場

ポイント2:リユースとリサイクル

初めてのゲームをリリースし、ビジネス面のプロセスについて知見を得てから、2人は次のプロジェクト『Days 2 Die』に素早く手を付けました。そのゲームは前のプロジェクトより少し大きなもので、バリケードを建てながら襲撃するゾンビーを攻撃するサイドスクロールのシューターでした。その開発過程では、最初のパズルゲームからのコードを再利用することで開発コストをカットできました。この学びは以降のプロジェクトにつながりました。

『Days 2 Die』

このようなコードやアセットの再利用とリサイクルは、どのような制作でもよくあることです。ディズニーの60年代〜80年代のアニメーションでもこの手法が使われています。意図的に再利用できるコードやアセットを作り、ツールのライブラリーを増やします。それによって、次のプロジェクトの開発コストが下がります。

ポイント3:早く失敗を積み重ね、次につながるように失敗

ゲーム開発を始めた頃のインディーゲーム開発者の最も大きい失敗のひとつは、目標設定を広げすぎることです。さらに大きな失敗は、時間を多くかけさえすれば、初めて作ったゲームでも成功すると思い込むことです。確かに、初めてのゲームでよく売れた開発者もいますが、それは例外です。実際には、99.9%の初期プロジェクトは失敗します。

初めてのゲームを野心的なプロジェクトにして、開発に何年もかけたインディーデベロッパーもいます。しかし、経験が不足していると、ゲーム開発は思い通りにいきません。ゲームや経験の欠点を修正するために、より多くの時間とお金が消費され、上手くいかない場合は同じことを繰り返します。この悪循環はサンクコスト効果(埋没費用の誤謬)です。人生をかけたのに、結局ゲームのリリースは残念なことになり、開発者はもう立ち直れません。

その一方、早く失敗を積み重ねることでサンクコスト効果のリスクを下げることができます。これは「Fail fast」と言い、無駄のないリーンスタートアップ手法のキーワードです。この「Fail fast」モデルは失敗をいち早く認識するためにインクリメンタル開発と試行錯誤が重要です。そして、前向きに失敗をして、失敗から学び、次の試みに適用することです。様々なアイデアを短い期間で試して、失敗から学びましょう。

Toge Productionsは近年、全員のメンバーが新しいアイデアを試しながら経験を積むために、年に1回のゲームジャムを開催しています。これらのアイデアの承認を得るため、モックアップをSNSに上げたり、プロトタイプを公開したりします。ヒット作の『コーヒートーク』はまさに内部のゲームジャムから生まれました。

『コーヒートーク』が生まれる2017年の内部ゲームジャム

ポイント4:対象のプレイヤーを知る

ひとつ前のポイントでは「早く失敗を積み重ねるべき」と言いましたが、ゲームを届けるターゲットとなるプレイヤーのことを知ろうとせずに開発を継続すると、迷ってしまう可能性があります。

『コーヒートーク』の成功した理由の1つは、このゲームのプレイヤーは誰であるかというペルソナと、そのプレイヤーにとっての求めている要素とハマる要素をある程度把握できたからです。そして、なぜターゲットとなるプレイヤーを知るべきかというと、ゲームの方針が決まるからです。例えば、「何を避けるべきか」や「この要素に何故こだわるべきか」という方針を示してくれます。

『コーヒートーク』

ポイント5:自分の限界を知る

Toge Productionsの2つ目のゲームは3ヶ月がかかりました。予算が少なかったため、できる範囲内で開発しました。コンパクトなゲームループに集中しながら、必要最低限の要素以外をカットしたり、簡易化しました。その上、節約のためにインスタントラーメンを毎日食べていました(当時の貯金:3万円以下)。自分のゲームのためとはいえ、栄養をカットすることは本当におすすめできません。私達の場合は幸いなことに、誰も病気になりませんでした。

また、「きっとできるだろう」という言葉がチーム内で言われ始めると、それは悪い兆候です。メンバーはみんな人間なので、一番経験のある人でも自分の力を過信してしまったり、物事の大変さを見誤ったりします。実は『コーヒートーク』の開発にあたり、Toge Productionsは倒産しかけました。最初は『コーヒートーク』が6ヶ月で完成する、短くてシンプルなビジュアルノベルになるかと思いきや、2年間もかかった重いプロジェクトになってしまいました。これは、ストーリー重視のゲームを作ったことがないため、シナリオライティングの大変さを見積もれなかったからです。「キャラクターの会話を書くなんて難しくないだろう」と思っていたら、スタジオが倒産寸前になりました。

この経験から学ぶことは、できること、できないこと、および開発過程のリスクを把握することです。多くのデベロッパーの夢はヒット作を出すことでしょう。その夢をエベレスト山の登山に例えましょう。エベレストの頂上にたどり着くため、計画、準備、および練習が必要ですが、自分の限界も知る必要があります。インスタントラーメンばかり食べて、健康的ではない状態、かつ登山ノウハウが知らない状態で頂上には届かないでしょう。

ポイント6:大きな目標を細分化

いくら準備しても、練習しても、ベテランの登山家でも、エベレストを一気に登り切ることはできません。頂上にたどり着くために、山道を細分化して、複数の中間目標に達する必要があります。ゲーム開発では、中間目標はテクノロジー、ノウハウ、アセットなどになります。

エベレスト登山の中間目標

目標を細分化することは新しいコンセプトではありません。しかし、細分化した結果の中間目標を1つずつゲームにしたら、どうでしょうか?

例として、Toge Productionsの『Infectonator』が挙げられます。最初は大きなゾンビーゲームのつもりで計画しましたが、当時は野心的な試みだったため、以下の通り複数の目標に細分化しました。

  1. AI経路探索と行動システム
  2. 主なゲームループを成立させる
  3. プロシージャル生成
  4. リソース管理
  5. ゲームのスケールアップ

そのため、1本のゲームを5年間かけて開発することの代わりに、8〜10本のゲームをリリースできます。そのメリットは、リリースした本数、経験やノウハウが増え、認知度と利益も上がります。

2009年〜2018年作られた『Infectonator』シリーズ

また、コードとアセットの再利用で『Necronator』と『Relic of War』といったスピンオフと新しいゲームを開発できました。

『Necronator』(2010年) と『Necronator 2』(2011年)
『Relic of War』(2012年) と『Necronator 3』 (2020年)

3Dへの発展も同じ細分化を使いました。今までToge Productionsは3Dゲームを作ったことがないため、3Dゲームをリリースという大きな目標を細分化し、作品を作りながら3D開発を勉強するハードルを下げました。例えば、『Infectonator 3』のゲームは基本的に2Dですが、3D環境と照明を実装しました。 その後、再利用できる、タイル単位の3Dレベルエディターを開発し、『Necronator 3』ではそのエディターと2Dドット絵を組み合わせた2.5Dの絵柄を実現しました。現在、そのエディターと積み重ねたノウハウを使って、初めての完全な3Dゲーム 『Kriegsfront Tactics』を開発しています。

タイル単位の3Dレベルエディター
『Necronator 3』の2.5Dの絵柄
『Necronator 3』と同じエディターを使った『Kriegsfront Tactics』

ポイント7:仲間を作ろう

個人でのゲーム開発は難しいです。ゲーム開発を継続するために、技術に優れた開発者の知人や、同じインディーゲーム開発の仲間が必要です。しかし、そのような人を見つけるのは簡単なことではありませんでした。

Toge Productionsは仲間とビジネスパートナーがいなかったら、今は存在していないでしょう。特にFlash時代ではArmor Games、Newgrounds、Kongregateなどの仲間が重要でした。

また、設立当初の2011年〜2013年は財力が高くなくても、海外に行ってGDCやCasual Connectなどイベントに無理やり参加しました。なぜかというと、当時のインドネシアはゲーム業界がなく、勉強したり、他の開発者と知り合うためには、海外のイベントに行くしかありませんでした。そのイベントから、様々な凄い方に会うことができ、友人になりました。もちろん、必ずしもビジネスチャンスに繋がるわけではありませんが、その方々から勉強しながら、精神的なサポートを得ています。

(indiegamesjpdevからの補足:ここ日本でも、インディーゲーム開発者同士のコミュニティーは充実してきました。関東のTokyo IndiesとIchi Pixel、asobu、そしてたくさんの小規模なSlack、Discordチャンネルがあります!)

最後に

各デベロッパーのゲーム開発の旅は異なりますが、この7点でリスクを最低限にし、成功する確率を最大限にできたらと思います。何か質問があれば、気軽にツイッター@kerissaktiに連絡してください。

Cheryl Ng

翻訳者・イラストレーター・謎クリエイター。主にゲームと謎を翻訳、時々イラストと謎を制作

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