『Olija』ロングインタビュー。ゲーム業界未経験の開発者が、固定給を貰いながらインディーとして2Dドットアクションをリリースし、アワードを獲得した経緯

2021年1月28日に発売されたドット絵2Dアクション『Olija』。

発売以来多くの称賛を浴びる本作ですが、Steamページを見ると開発者名には京都の会社「スケルトンクルースタジオ」と、同社に所属するトマ・オルソン氏の名前が併記されています。なぜ、同社に所属するトマ氏の名が会社名と併記されているのか。そこには、秘められた開発秘話がありました。

「会社に所属して給料を得ながら、自分のゲームを開発する」という、インディーゲーム開発者にとっては夢のような環境はどのように成り立ったのか。トマ・オルソン氏とスケルトンクルースタジオ村上氏にお話を伺いました。


https://www.youtube.com/watch?v=189d3ttTGAs

――今日はよろしくお願いします。お二人の自己紹介をお願いします。 

トマさん:トマ・オルソンです。『Olija』を作りました。よろしくお願いします。 

村上さん:株式会社スケルトンクルースタジオの代表取締役をしております、村上と申します。よろしくお願いします。 『Olija』では、プロデューサーとしてトマのサポートをしております。

――トマさんが『Olija』を開発した経緯やきっかけを教えていただけますか  

トマさん:『Olija』を作る前に『BackSlash』という、プレイペースの早い対戦バトルアクションゲームをつくりました。次は少し遅いペースでじっくり遊べる、世界観の強いソロプレイのゲームを作ろうと思って、村上さんにゲームのピッチをしました。  

――ピッチというのはスケルトンクルースタジオの中でのピッチですか? 

トマさん:そうですね。  

――ということは、村上さんも『Olija』を見られて、スケルトンクルースタジオとしてやっていこうみたいな形になったんですね  

村上さん:そうですね。トマのアイディアを見せてもらって、可能性がありそうなのでプロジェクトを始めようということになりました。  

――確かに一人プレイで世界観を描いたゲームになっていますね。銛を投げて移動するところはすごく世界観にもマッチしてるのかなと思いました。あの世界観やイメージについては開発前からお持ちだったのでしょうか? 

トマさん:『Olija』 を作り始めた当初は、ゲームプレイの細かい設定などはなく、少しずついろんなことを試しながら作りました。 

最初は「オリヤ」と「ファラデー」というキャラのイメージと世界観だけがあって、その二人のストーリーを描くゲーム作ろうと考えていました。二人で旅をするゲームにするつもりだったんですけど、オリヤのAIとかパスファインティングとかすごく難しくて、なかなか思う様なゲームにならなかったんです。 

行き詰まった時に、気分転換にアクションの制作にとりかかっていて、銛のアイディアが出てきました。前作『BackSlash』の時代から存在する伝説の神器の銛でのアクションを突き詰めていくと、結果的に『Olija』はプレイヤーと一緒に行動するキャラクターではなく、時々出会うキャラクターになりました。 

――世界観と実際に動かした内容を調整しながら開発が進んだのですね。となると、企画の段階だと実はこんなのがあったけど実装しなかったものもあるのでしょうか。  

トマさん:いやー、色々ありました。いろいろなことを試しにやっていたので。

村上さん:『Olija』の開発は、僕だけじゃなくて社内のみんなに応援してもらうため、定期的に社内向けのプレゼンををやっていました。テストプレイ会で、遊びながら意見を出し合って、面白くない部分や、試してみたら面白いところが出てました。コントローラーのボタン配置や、ゲームデザインの部分は特によく変わっていました。 

ただ、最初のストーリーの部分だけはトマの頭の中にイメージがあって、変わる事はなかったです。一人での開発なので、どうやったらゲームを完成させる事ができるか、ストーリーを理解してもらえるか、気持ちいい操作感をどう出すか、色々な要素でゲームがどんどん変わっていきました。 

――アクション面では、例えば「敵がコイン落として武器を買って主人公を強くする」とか「経験値を貯めて主人公が強くなる」などの要素があるゲームもありますが、そういう要素も取捨選択していったのでしょうか

トマさん:最初は経験値を積んで新しいスキルを買えるシステムがあったんですけど、システムを活かしたバトル要素を深く作りこめなかったので、やってみても全然面白いと思わなかったんですよね。最終的に、スキルを追加する帽子は入れましたが、RPGのように戦闘の深い楽しさを出すところまでは、出来ませんでした。  

――わかりました。オリヤとファラデーですが、どういうふうに思い付いたんでしょう。 

トマさん:オリヤの最初のアイディアですか?……分からないですね。どこから出てきたのかな。オリヤを思いついたキッカケは自分でも覚えていないのですが、二人がお互いに喋れないというのは最初から考えていました。それはすごく大事なところです。  

村上さん:トマの作品は、『Olija』が2作目となり、今回初めてのストーリー重視の作品にチャレンジしました。近くで見ていて感じたのは、計画的にストーリーの脚本を作るとうよりは、トマの中にある経験とか想いみたいなのが勝手に出てきて物語が生まれてきたという気がします。初めての作品って、小説とかでも自分の原体験なんかが出てくることあるじゃないですか。

――確かに。インディーゲームは作家の内面が反映されるものが多いのですが、ストーリー性のあるタイトルでは特に多いように思いますね。 

村上さん:そういう作品に近いのかなと思っています。トマはどう思うか分かんないですけど、僕が見ていると「ファラデー」と「オリヤ」はトマと奥さんなんですよね。トマは日本という異国に来て、今でこそ日本語を理解できますが、最初は全然わからなかっただろうし。奥さんは京都の地元の人で、彼女には元々ある繋がりやコミュニティがあったので。きっと奥さんと一緒に居ても、孤独を感じる場面があったんじゃないかと思います。 ゲーム中の二人からも、同じ様な印象を受けています。 

――ああ、そういう経緯もあったのですね。たしかに、海外から日本に来て暮らすのは知らない世界に一人で来たようなものですよね。 

村上さん:トマは奥さんの故郷である日本に来た異国の人で、心からつながれる人を作るというのはすごく大変で時間がかかったと思います。そういう彼の原体験が作品に表れているのかな、と勝手に思っています。 

トマさん:その上で、『Olija』でなぜしゃべれないところが大事かというと、私が日本でいろんな人と会ったときに、言葉の理解ができなくてもすごく優しい雰囲気を感じた経験にあります。言葉の理解がゼロの時でも良い関係ができる、言葉は全然できなくてもいい信頼ができる、という経験が『Olija』に反映されていると思います。  

――トマさんが日本に来た時の経験や感じたことが、ゲームに直接反映や表現されているわけではないんですけど、気持ちのところが反映しているのかもしれないですね。

HATA

5歳の頃、実家喫茶店のテーブル筐体に触れたのを皮切りにゲームライフが始まる。2000年代に個人でノベルゲーム開発をスタートし、異業種からゲーム業界に。インディーゲーム開発をしながらゲームメディアで記事執筆なども行う。

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